第09回 蒼穹のカルマ

今回ご紹介するのは、『蒼穹のカルマ』。作者は、『デート・ア・ライブ』でお馴染みの橘公司先生です。


空獣(エア)。それは名が示す通り、生涯を空で過ごし、死後も骸は地上に落ちないという生物です。蒼穹園と呼ばれる世界では、空獣と戦うため『蒼穹園騎士団』という組織が設立されていました。騎士団の中でも圧倒的なトップの実力を持つ女性が、主人公の鷹崎駆真。彼女は騎士団最強かつ冷静な判断力を持ち、自分の隊を指揮するカリスマ的な少尉です。実力だけでなくその美しさも評判で、常にクールな彼女が取り乱したときは蒼穹園が滅ぶ、と騎士団内で囁かれるほどでした。


……のはずなんですけどね。


この駆真には亡くなった兄の娘、つまり彼女にとっては姪にあたる、在紗という少女がいまして。駆真はとにかく姪を溺愛しています。1巻の時点で「在紗のためなら世界も滅べ」と平然と言ってのける神経の持ち主で、行動基準は在紗のためになること。騎士団の規則よりも、在紗の方が大事。一方の在紗は、駆真のことを「ねえさま」と呼んで慕っています。はっきり言って、駆真よりもずっとずっと良い娘。


この作品の楽しみ方は色々とありますが、駆真の変態度が巻を重ねるにつれて悪化していくのが一番のポイントかと。勇者になり、神になり、魔王になり、女子高生になり、魔法少女になり、幼児退行しても、その行動基準はあくまでも在紗ファースト。え、いくつかおかしい単語が混じってるって? 大丈夫、この作品では通常営業です。いろんな要素を強引に鍋にぶち込み、かき混ぜて、それが不思議と最終的には矛盾や破綻せず、一つの作品に仕上がっています。それは橘先生の実力だからこそなせる技でしょう。


もう一つの楽しみ方は、駆真をライバル視する、鳶一槙奈という女性。彼女が駆真に振り回され、どんどん転落の人生を歩む様子を、笑い(ちょっと同情)ながら読むことができます。特に7巻の彼女の哀れさはもう……大笑いするほかありません。


かなり控えめに言っても無茶苦茶なストーリーですが、駆真と在紗の愛は本物です。そこが本作の芯となる部分。頭を空っぽにして大笑いしたい方には、自信をもってオススメできる作品ですね。

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