第04回 B.A.D

第四回はB.A.D。綾里けいし先生のデビュー作です。


とある事情により、繭墨霊能探偵事務所で働く主人公の青年、小田切勤。そこは、普通の依頼を取り扱わず、陰惨な怪奇事件を担当します。事務所所長の繭墨あざかのワガママによって。


繭墨あざかは基本的にゴスロリ系の格好で、紅い唐傘を持つ変わった少女です。ちなみに、ボクっ娘。「チョコレート以外のものを食べると死んでしまう」と公言するほどのチョコレート中毒で、飲み物もココア。事務所に住んでいますが生活能力は皆無で、助手の小田切君は彼女の代わりに家事をしています。そんな彼女は、異能の力を持つ一族、繭墨家の当主で、『生き神』として一族の者達に崇められています。本人はそれを嫌い、家を出て探偵事務所を開いたのでした。彼女の能力は、唐傘を媒介にして異界を行き来したり、他人の夢を渡ることができたりします。


事務所に入ってくる依頼は、ほとんどが心に闇を抱え、歪んだ者が起こす事件ばかり。そういった依頼を繭墨は好みます。小田切君のストレスは日々溜まっていく一方。物語が始まった当初は、本人の抱える事情が原因で、あまり他人の心に踏み込んだり、必要以上に関わったりすることのない小田切君。ですが、物語を通して、次第に他人を助けたいと思うようになります。しかし、それは「あくまでも自分が第一で、他人に深く同情することはあっても、そのために自分が死ぬのは嫌だ」というもの。それが彼を苦しめることになるのですが、本作品は彼の成長物語でもあります。


それを醜悪な矛盾だと指摘する者がいます。繭墨の兄であり、ある意味宿敵ともいうべき存在、繭墨あさとです。彼は自身の異能を使い、小田切君に『鬼』を孕ませました。その鬼は、小田切君が他人の心の闇に同調するたびに成長し、小田切君の腹を破って出てきます。小田切君を「ぱぁぱ」と呼び、無垢に慕う少女の姿をした鬼は、小田切君にとっては切り札ともいうべき存在。異能の敵を食い殺してしまいます。ですが、そのまま成長していけば、宿主の小田切君を食い殺します。繭墨は破られた腹を塞ぐことができ、そのせいで小田切君は繭墨から離れることができません。


物語の魅力は、その歪んだ事件の数々。「残酷で切なく、醜悪に美しい、ミステリアスファンタジー」というキャッチコピーに偽りなし。人間の醜い部分を怪奇事件という形で毎度上手く表現されています。


白河としては、お気に入りキャラは水無瀬白雪。おそらく、ファンの中でもかなり人気の高いキャラでしょう。彼女と小田切君のラブストーリーは、思わず頬が緩んでしまいます。それをからかう繭墨。


ちなみに、繭墨がスクール水着を自ら進んで着るシーンがあり(挿絵つき!)、小田切君に感想を求めたところ、「僕はビキニ派です」と冷たくあしらわれます。それがとある短編に繋がっていくことになるのですが、小田切君は知る由もありません。


ところどころギャグシーンや和むシーンもありますが、それを消し飛ばすかのように、ショッキングなシーンや闇深いシーンがてんこ盛り。おかげで、人を選ぶ作品ではあります。そういった要素を受け入れられる方にとっては、素晴らしい作品となることでしょう。


ドラマCD化もされています。繭墨あざかは丹下桜さん、小田切君は杉田智和さんが声を担当されています。お二方のファンはぜひ、お聞きください。

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