第06回 死体泥棒

今回、ご紹介するのは『死体泥棒』。作者は、唐辺葉介先生です。


主人公の「僕」は大学生。ある日、恋人が突然の死を迎えてしまいます。彼女の葬儀会場へと忍び込んだ主人公は、その遺体をこっそり盗み出します。一人暮らしのアパートを大型冷蔵庫が占拠し、その中に彼女の遺体を保管。そうして、もう目覚めることのない彼女との同棲生活を始めるのでした。


――というあらすじを読むと、サスペンス・ドラマの幕開けのようにも思えるこの物語。ジャンルを分類するなら、ラブストーリーです。ええ、ラブストーリーですとも。死体愛好家の偏執的な欲望に満ちた愛ではなく、若さゆえの純粋さと愚かさを併せ持った恋愛物語。失った恋人との別れを惜しむがあまり、つい魔が差した行為です。


唐辺先生の作品に共通する点は、愛の美しさとは醜さと表裏一体であること。死体との同棲生活を続け、警察の捜査が進むにつれ、主人公は恋人の死と向き合うことになります。主人公が持つ「普通とはちょっとズレた感覚」。どこか淡々とした、けれども繊細さを忘れない、先生独特のタッチの文で綴られています。その薄気味悪さと純粋さが上手く混ざりあった、作品の空気感がたまりません。でもご心配なく。本作の読後感はけっして悪いものではありませんから……たぶん。


本作をはじめとして、唐辺先生の作品は発売時と比べて値段が高騰する傾向にあります。もしもあなたが書店でそれらを見かけたなら、まぎれもなく幸運といえるでしょう。いいからそのままレジに持っていきましょう、後悔はさせません。

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