ノベルゲーム『百花の街をさまよう』トゥルールート原案

cherry_day1.ks

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#

木も草も花ざかりの公園は、甘い匂いがしていた。[l][r]

芝生広場をぐるりと囲む桜が見事だ。[l][r]

でも、そんなことより……。[l][r]

[chara_show name="sakatani" wait=true]

[r]

広場の端で、バケモノが桜を眺めていた。[l][r]

赤い宝石みたいな頭を傾げ、花見をしている。[l][r]

ときおり白い布が頭の宝石を磨いた。[l][r]

[r]

不思議と怖い感じはしない。敵意もなさそうだ。[l][r]

むしろ美しくて、しばらく見とれてしまった。[l][r]

人間からはほどとおい、冷たくも澄んだたたずまい。[turn]

風が吹いた。そよ風なのにすごく大きな音に聞こえる。[l][r]

そのくらい、この公園もとても静かだ。[l][r]

ここまで十分ほど歩いてきたが、誰にもあわなかった。[l][r]

いくつか建物の側も通ったが、どれも人気がなかった。[l][r]

道路もなにも通らなかった。[l][r]

[r]

この街はバケモノしかいないのだろうか。[l][r]

人間はどこに行ってしまったのだろうか。[l][r]

そんなことを考えながら、バケモノの後ろを通ろうとした。[l][r]

すると。[turn]

[message_talk]

[wait time=1000]

#bakemono

おや、人だ。[turn]

#me

わ、わあああああ！　しゃべったああああ！[turn]

#

思わず絶叫してしまった。[l][r]

というかそっちが前なんだ。[l][r]

僕はバケモノの後ろではなく前を堂々と通っていたようだ。[turn]

#bakemono

喋ったもなにも……。[turn]

#me

こ、言葉がわかるんだな？！[turn]

#bakemono

え？　それはまぁ、そうだが……。[turn]

#

僕は思わずバケモノににじり寄る。[turn]

#me

なぁ、なんでこの街は誰もいないんだ？！[l][r]

というかここはどこだ？[l][r]

いるのはどうしてバケモノなんだ？！[turn]

#bakemono

……。[turn]

#me

わからないなら、なぁ、せめて、[l][r]

……うっ、ぐすっ、[l][r]

せめて、少し話を、させてくれ……っ！[turn]

#

どっと涙があふれてきて、少し驚いた。[l][r]

僕はこんなにも寂しかったのか。[l][r]

言葉が通じて、こんなに安心したのか。[turn]

背を丸めてすすり泣く僕を、[l][r]

バケモノはしばらく黙って見下ろしていた。[turn]

#bakemono

……。[l][r]

話をさせて、か。[l][r]

雑談はあまり得意じゃないんだが。[turn]

あー。[l][r]

じゃあ、自己紹介でもしようか。[l][r]

私は、サカタニ。[turn]

#sakatani

専門は、あー、そんなのどうでもいいな。[l][r]

素人に研究の話をしたがるのは、私の悪い癖だ。[l][r]

だからあの人も……あー、なんでもない……。[turn]

……ふう。失礼。[l][r]

きみの名前は？[turn]

#me

僕？　僕は……。[l][r]

……覚えてないんだ……。[turn]

#

また涙があふれてきた。[l][r]

僕はだれなんだろう。[turn]

#sakatani

あー。[l][r]

それは、うん……。[l][r]

……。[turn]

#

サカタニはしばらく頭を揺らしていた。[l][r]

何かを言うか言うまいか、迷っているように見えた。[l][r]

……結局言わないことにしたらしい。[turn]

#sakatani

えー。[l][r]

ところで、きみ。[l][r]

泊まるところはあるのか？[l]

[select1 target="*hotel_yes" text="あると思う"]

[select2 target="*hotel_no" text="ないと思う"]

[s]

*hotel_yes

[eval exp="f.hotel = true"]

#sakatani

ならよかった。[l][r]

あちこち花だらけで春のように見えるだろうが、[l][r]

今は秋だ。夜は冷えるからな。[turn]

@jump target="*hotel_common"

*hotel_no

[eval exp="f.hotel = false"]

#sakatani

ならこれをあげよう。[l][r]

落ちてた鍵だ。[l][r]

番地書いてあるし、不法侵入するといいんじゃないかな。[turn]

#

不法侵入なんて、俗っぽい言葉を知っているバケモノだ。[turn]

*hotel_common

#sakatani

とりあえず今日はもう休んだほうがいいんじゃないかな。[l][r]

もうじき日も暮れる。[turn]

明日は、花見でもして過ごしてみたらどうだ？[l][r]

せっかくこれだけ花が咲いているんだから。[l][r]

眺めているうちに、何か……あるかもしれないし。[turn]

困ったことがあったら。[l][r]

えー……。[l][r]

また会いに来ても、かまわないよ。[turn]

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#

[if exp="f.hotel"]

なぜだか自分も入れる家を覚えていた。[l][r]

僕の自宅というわけでは、なさそうだが……。[l][r]

[r]

茶の場所も菓子の場所も知っていた。[l][r]

湯の沸かし方も知っていた。[l][r]

体が自然に動く。[l][r]

[r]

ここはどこなんだろう……。[l][r]

安心感があるのに、気分が悪い。[turn]

僕は建物の中を一周してみた。[l][r]

生活した形跡はあるのに誰もいなかった。[l][r]

かえって誰か潜んでいそうで怖い。[l][r]

[r]

隠れられそうな場所を全て調べてみた。[l][r]

当然、誰もいなかった。[l][r]

[r]

調べ疲れて、大きなソファーで横になった。[l][r]

だれもいない街を歩き回って疲れたのだろう。[l][r]

すぐ眠りに落ちてしまった。[turn]

[else]

サカタニにもらった鍵を頼りに、団地の一件にたどり着いた。[l][r]

扉にはロゴステッカーの剥がれたあとがある。[l][r]

会社か何かだったのだろうか。[l][r]

[r]

鍵はすでに開いていた。[l][r]

拍子抜けしながら、中に入る。[l][r]

[r]

なんだか嗅ぎ慣れたにおいがする。[l][r]

ここはどこなんだろう……。[turn]

建物の中を一周してみた。[l][r]

いくつかの机。それぞれにパソコン。文具。ペンタブレット。[l][r]

やはり会社かなにかのようだ。[l][r]

それにしては備品がシンプルすぎる気もするが……。[l][r]

[r]

不意に、ひどい既視感に襲われた。[l][r]

すべての物に見覚えがある。[l][r]

何がどこにあるかわかる。[l][r]

知らない場所のはずなのに。[l][r]

……本当に知らない場所なのか？[l][r]

[r]

気分が悪くなり、大きなソファーで横になる。[l][r]

そしてそのまま眠ってしまった。[turn]

[endif]

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