三日目
めざめ、三日目
朝起きぬけにシャワーを浴びた。人はいないが、水もお湯も出る。目を閉じていても体がシャンプーの定位置を覚えていた。
僕はこの建物を使っていた人間。それはもう疑いようがない。
シャワーを止めると静寂が耳をつらぬいた。自分の頭から落ちる水滴の音がとても大きく聞こえる。
「……あの部屋」
思わず声に出す。この建物を一通り調べたつもりでいたが、ひと部屋だけ立ち入っていなかった。見えていたのに、知っていたのに、なぜか調べなかった。今の今まで思い出すことすらできなかった。
サカタニの言葉が脳裏に響く。
『思い出せないのは、思い出す機能がないのか? 思い出す理由がないのか?』
少しずつ、本当に少しずつだが、僕が何者でどうしてここにいるのか、その答えが近づいている。機能が戻ってきているのか理由が戻ってきているのかはわからない。
洗濯機が乾燥運転終了のジングルを鳴らし、僕は我に返った。
部屋のことは保留し、湯冷めする前に着替えることにした。
この建物の小さなキッチンにはインスタント食品が山ほどある。
朝食をとりながら、ミノリのことを思い出した。あそこの生鮮食品はほとんどダメになってしまっていた。今日もお腹をすかせているだろう。少しわけてあげてもいいかもしれない。
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