ノベルゲーム『百花の街をさまよう』トゥルールート原案

千住

百花の街をさまよう 桜迎ルート

プロローグ

厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんくじょうど)

『−−市内は依然として危険な状態にあります。立ち入り禁止の指示を守り、逃げ遅れた人は外に出ず、窓に目張りして救急隊の到着を』


 エンジンを切るとカーラジオの声もぷつりと途絶えた。


 依然として危険な状態。とてもそうは見えない。いつもの街がまるで天国のようだ。桜吹雪が舞い、ツツジが咲き、テッポウユリが揺れ……。


 僕は大きく深呼吸しようとした。息がつまってうまくできない。これからすることを考えると、心臓が激しく鳴って汗も止まらない。


 車の鍵をどうしようか迷った。助手席に置いていくことにした。必要な誰かの助けになるかもしれないし、もしかしたら気が変わるかもしれないから。


 本当に? 本当に気なんて変わるのか?

 気が変わったところで、居場所なんてあるのか?


 激しいフラッシュバックが僕を襲う。頭の中が叫びでいっぱいになる。


「やめろ……やめろ……」


どうして僕がこんな目にあうんだ−−

僕はただ−−

この苦しみが続くなら消えてしまいたい−−

今のこの場所なら僕を殺せる−−

もう二度と誰にも会いたくないから−−

人間はもう見たくないバケモノの方がマシなくらい−−


「っうわああああああああ!!!!」


 叫びで怖気を振り払い、車のドアを開け放つ。

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