鍵、家

 サカタニにもらった鍵と街中にある案内板を頼りに、団地の一件にたどり着いた。郵便受けに書かれた番地と鍵のタグの番地が同じなのを、もう一度確認する。

 扉にはロゴステッカーの剥がれたあとがある。会社か何かだったのだろうか。日焼け後からうっすらと「画スタジオ」と読み取れる。

 

 鍵を扉にさしこんだが、うまくまわらない。ドアノブをひねると、鍵はすでに開いていた。 

 拍子抜けしながら、中に入る。 


「こんにちは……」


 念のため挨拶してみたが、虚空に響いて消えた。この建物にも誰もいないらしい。玄関はきちんと掃除されている。まるでつい数日前まで人が使っていたかのように。

 

 リビングと思しき部屋に入ると、なんだか嗅ぎ慣れたにおいがした。

 

 ここはどこなんだろう……。 


 建物の中を一周してみた。 

 いくつかの部屋に、いくつかの机。それぞれにパソコンとペンタブレット。文具の数々。やはり会社かなにかのようだ。 

 それにしては備品がシンプルすぎる気もするが……。 

 

 不意に、ひどい既視感に襲われた。 

 すべての物に見覚えがある。 

 何がどこにあるかわかる。 

 知らない場所のはずなのに。 

 ……本当に知らない場所なのか? さっきサカタニは、なんと言っていた?


 だめだ。思い出せない。


 気分が悪くなり、大きなソファーで横になる。 

 そしてそのまま眠ってしまった。 

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