ミノリと昼食と毒
二つのカップ麺とオレンジを盆に載せ、ガーデンテーブルに戻った。バケモノが箸を使えるようには見えなかったので、フォークを渡す。
「ありがとう。ご飯取れなくて困ってたの。わたし、足がこの通りだから」
口調は冷静だが、がっつくように食べはじめた。
よほど空腹だったのだろう。何日食べてなかったのだろう。
僕も僕で、思ったより早くカップ麺を空にしてしまった。
バケモノから漂うすえたような臭いも、ラーメンとオレンジの前にはどうでもよくなっていた。
不器用な仕草でオレンジにしゃぶりつくバケモノ。
そういえば、ご飯を取れないと言っていた。
僕はふと思い立って尋ねる。
「きみは、どうしてこの街にいるんだ? 家族、って言っていいのかわからないけれど、世話をしてくれる人はいないのか?」
「置き去りにされたの。お母さん今ごろ東京で楽しく婚活してるんじゃないかな」
「……」
「お父さんは育児放棄して離婚。おじいちゃんとおばあちゃんはちょっと前に死んじゃった」
思わず言葉を失ってしまった。
僕が黙っている間に、幼いバケモノはカップ麺とオレンジを平らげた。
「ごちそうさまでした。本当にありがとう」
「あ、ああ、うん」
どもる僕と、フォークを置くバケモノ。妙な沈黙があった。
「……。もうひとつお願いがあるの。叶えてくれたら、この家の中のものは全部好きにしていいよ」
嫌な予感がした。
僕の返事を待たず、その子は言った。
「毒薬がほしい。楽に死ねる毒を探してきてちょうだい。ね、おねがい」
おねがいって、言われても。
「……きみ、名前は?」
僕の唐突な問いにバケモノはうろたえた。
「え? ミノリだけど……。急にどうしたの?」
「せっかくだから知りたかったんだ」
本当は、なんでもいいから話をそらしたかった。功を奏したようでよかった。
ミノリはくすくす笑った。
「へんなの。じゃあ、おにいさんの名前は?」
「思い出せないんだ。いろいろと忘れていて。どうしてここにいるかも知らない」
僕は正直に答えた。
「そっか。大変だね。思い出せるといいね。それか、思い出せないことも忘れちゃえるといいね」
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