ミノリの家を離れ、僕はその足でサカタニに会いに行った。


 サカタニは相変わらず桜の公園で絵を描いている。


「なぁ、サカタニ。突然妙なこと聞いて悪いんだけど、飲んだら死ねるような毒、持ってないか?」


 サカタニの鉛筆が止まった。


「……。死ぬのか?」


「僕が使うわけじゃない」


 正直に答えた。ミノリのことを思い出し、語尾が少しだけ震えてしまった。


 サカタニは詮索しなかった。


「あるにはある。簡単に手に入る。なんなら今持ってる。あげるよ」


 バケモノらしく毒液を吐いたりするのかと思えば、差し出したのはガラスのボトルだった。知らない化学物質の名が書いてある。


「死ぬつもりだったのか?」


 意趣返しのつもりだった。

 サカタニが笑うのを期待していた。


 サカタニは答えなかった。

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