第9話 如月結衣3

 そして、俺と九条さんは二手に分かれた。ただ闇雲に走るしかない。


 近くにいるといいんだけど……。もしかすると、家に帰っちゃったかも知れない。


 半分諦めながら走っていると、小さな公園前に着いた。ふと、目線を公園内に向けると、亜麻色の髪をした女子がブランコに座っていた。


 如月さんだ。


 俺は何も考え無しに如月さんの元に向かった。そして如月さんの目の前に立つ。すると、如月さんはゆっくりと顔を上げた。その目元は赤くなっていた。


「なによ」


 拗ねた言い方である。しかし目つきは、さっきまでと違って鋭さがない気がする。


 そういえばさっき、九条さんの為にと言っていたよな。俺が九条さんにとって無害であることを、如月さんに証明しなくてはいけない気がする。よしっ……!


「その……なんていうか、俺と友達になってください!」


「はぁ?」


 深々と頭を下げると、如月さんは間の抜けた声を出す。


「い、いきなり何よ。桃華だけでなく、あたしにもちょっかい出そうっての?!」


「い、いや違う違う! ただ、如月さんに俺を認めて欲しいだけなんだよ。その、如月さんが言ってたように、俺が九条さんと仲良くなりたいって思ったのは可愛いから。それは間違いないんだけど、それは一つのキッカケであって、今は色んな九条さんを知りたいっていうか、なんていうか……」


 言葉の整理がつかず、詰まってしまう。すると、如月さんは呆れたようなため息をつく。


「はぁ……。認める……ね。いいよ。それじゃ、まずは見てあげる」


「ま、マジっ?!」


 思わぬ反応に目を輝かせると、如月さんの顔が赤くなる。


「ま、まだ認めたわけじゃないから! あんたが桃華の周りをうろつくのを一時的に許してあげるだけ。もし、何かあったら即刻遮断よっ!」


「うん! それで良い! 良かったー」


 お許しが出たことに舞い上がってしまう。すると、如月さんは、またもため息をついた。


「で、何であんたが追いかけてきたの? 桃華は?」


「え? あー二手に分かれて……。あっ、連絡しなくちゃ!」


 俺がこうしている間にも、九条さんは走り回っている。一番に連絡してあげなきゃ駄目だったろう。


 急いでスマートフォンを取り出し、九条さんに電話する。如月さんを見つけたことを伝えると、すごく安心したような様子だった。


 そして待つこと数分。九条さんも公園にやってきた。九条さんは如月さんを見つけるなり、駆け寄って抱きついた。


「結衣ちゃん、ごめんね。私酷いこと言っちゃったよね?」


 すごく申し訳なさそうに言う九条さん。それに対して如月さんは九条さんの背中を撫でながら微笑む。


「あたしの方こそごめんね。その……ちょっと熱くなりすぎちゃった」


 如月さんが照れたような言い方をすると、九条さんはゆっくりと首を横に振った。すると、如月さんの目がこっちを向く。その目は睨むような鋭さだったけど、さっきまでとは違うような。


「あんたのせいで、桃華に変な心配かけちゃったじゃない」


「えぇ……いや、それは理不尽でしょう……」


「ふふ、冗談よ」


 そう言って如月さんは笑みをこぼした。何というか、棘が一本取れたような。そんな気がした。


 と、一安心していると、着信音が聞こえてきた。誰のだ? と思っていると九条さんがスマートフォンを取り出し、電話に出た。


 通話をしている途中、どんどん九条さんの表情が暗くなっていく。そして、電話が終わると、ぎこちない笑顔を俺に見せた。


「家の用事があるの忘れてた。その……今日は帰るね。ごめんね。また今度食べに行こうね」


「う、うん」


 何というか、嫌そうというか……。行きたくない用事なのかな。


 別れの挨拶にと手を軽く振ると、九条さんは沈んだ表情を見せて帰っていった。その後ろ姿が心配で見つめていると、如月さんが俺の横に立つ。


「桃華の家、結構厳しいからね。あんたも覚悟したほうがいいよ」


「え? どゆこと」


「それは、あたしがベラベラ話すことじゃないから」


「そ、そっか。ごめん」


「ま、そういうのも含めて、知っていくってやつでしょ?」


「だね」


 厳しい……か。しきたりとかかな。いや、今考えても仕方がない。如月さんの言う通り、ゆっくり知っていけばいいんだ。


 さて、俺も帰るか。そう思い、足を進めようとした。すると肩を掴まれた。後ろに倒れそうになりながら振り向くと、如月さんが細めた目を俺に向けていた。


「で、何であんたは桃華と仲良くできてんのよ?」


「え? いや、何でって言われてもな。受験の時に筆記用具貸したのが始まりというか」


 俺がそう言うと、如月さんは目を見開く。そして大きな声を出し始めた。


「あ、あんたが、その人なの?!」


「そ、その人?」


「い、いや、こっちの話。ふーん、なるほどね」


「いや、一人納得してないで教えてよ」


 そう言って迫ると、如月さんは顎に手を添えて悩みだす。そして「よしっ」と言うとこっちに顔を向けた。


「多分、桃華の口からは出ない話だから、あんたには言っておくよ。あ、今から話すことは絶対バラしちゃ駄目だよ。取り敢えず、座りましょ」


「お、おう」


 長い話になるのだろうか。俺と如月さんは近くのベンチに座った。すると如月さんは遠くを見つめながら話しだす。


「桃華ね、中学の時はすっごい地味な子だったの。丸メガネで髪はビッチリまとめちゃっててね」


「うん、知ってるよ。受験の時もそんな感じだったと思う」


「まあ、桃華もそうしたくてしてるわけじゃなかったんだけど、それが原因で男子からよくからかわれてたわ。酷い奴なんてブスとか言ってたし」


 思い出したのか怒り口調の如月さん。確かに地味な見た目だったと思うけど、見た目でからかったりするのはどうかと思う。


「酷いね」


「でしょ? もう、それが許せなくて。そいつら、あたしには媚びっ媚びの態度見せてくるくせに、影では桃華の事悪く言っててさ。だからあたし、一暴れしてやったのよ。そしたら、一応収まりはしたんだけど、桃華は孤立しちゃってね。あたし悪いことしたなって。だから、決めたの。あたしだけは桃華の味方でいようって」


「そっか。だから九条さんの為にと頑張ってるんだね」


「そういうこと。ま、今回はあたしの暴走が過ぎちゃったけど。と、話を戻すね。それから、あたしと桃華は卒業までずっと一緒だったわ。高校は、本当は違うとこ行くはずだったんだけど、桃華がお母さんを説得して、あたしと同じとこにしてくれたの。そして、受験の時に会ったのが、あんたってわけ。桃華、優しくされたことあまりないから、あんたの捨て身の手助けに、すっごく感動しちゃったんだってさ」


「そっか。そうなんだね」


 捨て身の手助けか。そんな大袈裟なことじゃないと思ってたけど、九条さんにとっては、大きな出来事だったんだな。


「そそ。それから入学しても桃華はあの見た目だったんだけど、ある日生まれ変わったかのように、見た目を変えてきたわ。まあ、元が良いのは知ってたけど、ビックリしたなー」


「へぇ、何でだろうね」


 何も考えずに言うと、如月さんは呆れたようなため息をつく。


「あんた、バカ? ま、いいわ。そういうことだから、桃華のこと大事にしてあげてね」


「へ? あぁ、もちろん! ちゃんと見張っててね!」


 そう言ってサムズアップすると、如月さんは目を細めて蔑視の眼差しを向けてきた。


「言われなくてもよ。それじゃ帰りましょ」


 そう言って立ち上がった如月さん。ふと頭上を見れば、好感度は35になっていた。


 ば、爆上がりしてる?!


 何はともあれ、少しは仲良くなれたのかな? いや、これからか。

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