第13話 突撃! 冬美来探偵団
中間テストも終わり、俺達の高校生活は六月を迎えていた。
九条さんと知り合ってもうすぐで一ヶ月か。感慨深いなあ。
と、間抜けな顔をしながら、購買へ足を進めていく。すると珍しいことに、美来が後ろからやってきた。
「ちょ、ちょっと冬馬! 少し話がある!」
息を切らしながら、只事ではなさそうな雰囲気を醸し出す美来。何事だと身構えると、美来は膝に手をつきながら続ける。
「は、春輝が……九条さんと二人でコソコソしてるんだけどっ!」
「ふーん。って、どゆこと?」
そう考えなしに聞くと、美来の眉間にシワが寄る。
「だ・か・ら! 春輝が今日、昼ご飯一緒に食べられないって言ってたでしょ? その理由が九条さんと二人でご飯食べる為だったってことなのよ! 空き教室でコソコソと!」
「なん……だと?!」
これはどういうことなんだ?! なぜ俺達と分かれてお昼を食べるのだ?! それも内緒でっ! 気になりまっす!
「ど、どうする?」
美来に判断を委ねてしまった。こういう時に、サッと決められないのは本当情けない。すると美来は、ズビシっと人差し指を俺に向ける。
「決まってるでしょ! 調査よ調査!」
「お、おうっ!」
こうして俺と美来は、お昼ご飯もそっちのけで、九条さんと春輝がいるとされる空き教室に向かった。
空き教室の入り口から目だけを覗かせれば、窓側一番奥の席に九条さんと春輝がいた。距離が遠いせいなのか、二人の話し声が小さいせいなのか、会話が正確に聞き取れない。
ふと美来の方を向けば、もどかしそうな表情を浮かべていた。そして小声で話しだす。
「何話してるか分からないじゃない!」
「んー、聞かれたくないことなのかも」
そう思ったら、盗み聞きするような真似は良くない気がしてきた。
しかし、楽しそうな表情を浮かべる九条さんを見ると、心が締め付けられてしまう。今まで色んな女子が春輝に近づいたりしても、別に何とも思わなかった。でも、今は何というか苦しい。
春輝はイケメンで優しいしな。俺、意外とコンプレックス強いのか? いや、それこそいつものことだ。何を今更。
「なあ、美来。もう戻ろう」
「えぇ?! んーまあ良いけど。結局何も分からなかったし」
こうして教室に戻った俺と美来は、残り少ない昼休憩時間でお昼ご飯を食べた。その後、春輝は午後の授業を知らせるチャイムが鳴るギリギリ前に戻ってきた。
そして午後の授業が始まるわけだが、上の空。やはり、二人が何話してたか気になる。と、ボーッとしていたら先生に何回か注意されてしまった。
はぁ……。ここまで凹んでしまうとは……。片思いって、楽しいことばかりじゃないんだな。
そしてやってきた放課後。俺は思い切って、春輝に昼のことを聞いてみることにした。
「なあ、春輝。ちと良いか?」
「おお、どうした?」
いつものように爽やかな笑みを浮かべる春輝。俺は喉を一回鳴らし、質問をぶつけてみた。
「な、なあ、春輝。今日の昼さ、何してた?」
「ああ、昼? 相談にのってた」
「へ、へぇ。なるほど」
いったい何の相談なのだ?! たがこれ以上の詮索は、よくない気がしてきた。
「そんじゃ、帰るか!」
引きつった笑顔でそう言うと、春輝は申し訳なさそうな顔をする。
「悪い、今日は用事がある」
「そっか! んじゃまた明日な!」
そう言って手を挙げると、春輝も軽く手を挙げる。そして教室を出ていった。さて、俺も帰るかと、足を進めようとする。すると、険しい顔をした美来が俺の横に来た。
「冬馬、追うわよ」
「え、マジかよ」
「マジもヘチマもないわよ! 気にならないの?」
「いや、なるけどさ。なんか良くないことしてる気がするよ」
「あっそ! じゃ私一人で行くから」
「お、おい待ってよ」
ズカズカと地を踏んづけるように歩いて行く美来。何をそんなに必死になっているのか。そんな美来が、何かやらかさないか心配なので、俺もついて行くことにした。
もはや競歩。そんな速度で歩いていく美来の後を追っていく。そして昇降口を出ると、春輝を発見した。その横には九条さんがいる。
放課後の用事って、これか?!
そう狼狽えていると、美来が厳つい顔を俺に向ける。
「これってデートよね?」
「い、いや、まだ分からないだろ」
俺だって、九条さんと二人でお出かけしたことあるし。そ、そう決めつけるには、まだ早い。
それから二人の後を、一定の距離を保ちつつ尾行した。時に電信柱の裏、時にポストの影に身を隠しながら、足を進める。そして住宅街を抜けると、駅前に着いた。
「ま、まさかの遠出?!」
そう言って目を見開いた美来は、鞄を漁り財布を取り出す。俺もそれにつられるように、鞄を漁った。
そして駅内に入っていった春輝と九条さん。ここからは人口密度が高くなる。見失わないように、距離を縮めながら追っていかねば。
改札を抜け、そして電車に乗る。俺と美来は春輝達がいる車両の一つ隣に乗り込み、連結部の扉越しに二人を観察していた。
どこへ行くのか……。あんまり遠いと運賃がなぁ……。と考えていると、二駅先で春輝達が降りた。俺と美来も、他の乗客をかき分けて急いで降りる。
そして、駅を出るとそこは商店街だった。大きなゲートをくぐれば、色んなお店が所狭しと並んでいる。行き交う人も多く、下手をすればすぐに見失ってしまいそうだ。
「まさか、買い物デートとはね……」
顎に手を添えて、渋い顔をする美来。買い物かぁ。絶対楽しいやつじゃん……。
それから商店街の中へと進んで行く春輝達。十数メートルくらい歩いたところだろうか。俺は、ある点に気付いてしまう。春輝達は、脇目も振らず、ズンズン奥に進んでいっているのだ。つまりは、目的の場所が定まっていると見た。
そして、俺の予想通りかは知らないが、春輝達は一軒の店に迷いなく入っていった。ぱっと見、雑貨屋さんっぽい。
二人が店に入るのを見届けると、美来が立ち止まる。
「さすがに中までは入れないわね」
「まあ、そうだね。んーどうするよ?」
「まだよっ! まだ、確信的な物がないわ!」
そう言って美来は、俺の腕を引っ張り出した。いったいどこへ行くんだと不思議に思っていると、春輝達が入った店とは別の雑貨屋さんに連れ込まれた。そして、そこで百円のサングラスを二つ買う。
「これで変装もバッチリね!」
「いや、怪しさしかないと思うけど……」
制服姿にサングラスって……。かえって目立つんじゃないだろうか。
と呆れながら店を出ると、時同じくして春輝達も店から出てきた。優しい笑みを浮かべる春輝と、満足そうに笑う九条さん。何というか、美男美女でお似合いだなと、ふと思ってしまった。
九条さんの手には小さな紙袋がぶら下がっている。春輝は何も買っていないようだ。
はぁ……あんな楽しそうな様子を見たら、気持ちが沈んじゃうよ。ため息しか出ない。俺は欲張りすぎたのだ。九条さんと仲良くなれた。それだけで満足できなかったんだ。その仕打ちが今、きたに違いない。
と肩を落としていると美来が空手チョップをお見舞いしてくる。顔を上げれば、美来は呆れた表情をしていた。
「ほら、追うわよ!」
「ほいほい……」
そこからは来た道を戻って行くだけだった。やはり予想通り、店も買う物も決めて来たのだろう。スマートというか、何というか。俺だったらリサーチ無しで来てしまうだろうな。
そしてまた二駅戻って改札を出ると、春輝と九条さんは別れた。ここで尾行もお終い。さて、帰るかとため息をつくと、美来が声を張る。
「突撃よ! 春輝に尋問!」
「いや、やめとこうぜ。変に探って喧嘩になったら嫌だし。きっと春輝達から言ってくれるよ」
「そ、そっか……。うん……分かった。そうする」
さっきまでの勢いがなくなってしまった美来。まぁ、昔から俺と春輝に色々世話焼いてきた美来だからこそ、思うことも多いんだろう。それでも引くときは引く。待つときは待つ。それが平和的方法なはず。
とは言ったもののモヤモヤとしてしまう。そんな気持ちを引きずったまま俺は家に帰った。リビングに行けば、母さんが俺を呼ぶ。
「あら、冬馬おかえり。あっ、そうだ、何か欲しいものある?」
「欲しいもの? ないよ……」
あえて言うなら心の平穏。少しぶっきらぼうに答えてしまったことを後悔しながら、俺は自室に向かった。
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