第12話 合コン2

 それから合コンについての予定合わせやら何やらが始まった。メンバーとしては、男女五人ずつの計十人という大所帯になってしまった。


 五美達にそのことを伝えると、春輝がいることに絶望していた。まあ、気持ちは分からなくもないけど。


 お店の予約については、女子達がしてくれるとのことで、意外とスムーズに事が進んだ。


 そして、やってきた合コンの日。放課後、俺たち男子組は教室に一旦集まり、作戦会議をすることに。最初に切り出したのは、言い出しっぺの五美だ。


「とうとう、この日がやってきた。今日の頑張り次第で、俺たちのスクールライフが薔薇色に染まるかが決まる。みんな、慎重に頼む。くれぐれも、足を引っ張り合うようなことはするなよ」


 それに頷く友人二人。春輝は興味がないのか、ボーッと遠くを見つめていた。すると、五美が春輝を指差す。


「特に七瀬! お前は座ってるだけでもモテてしまう。今日はいい感じにカッコ悪く振舞うことだ! いいな!」


「はいはい」


 五美が鼻息を荒くして言う中、春輝は面倒臭そうに返事をする。しかし、その言い分だと春輝が可哀想だろ。みんなで楽しんでこそだ。


「別にあえて、そんな風に振舞うことないだろ。普通にしてればいいよ」


 俺がそう言うと、五美はそっぽを向いて口を尖らせる。


「ま、まあ、桐崎がそう言うなら、それで良いけどな」


 と、こんな感じで中身の無い作戦会議をして、女子達が予約した店に向かい始めた。


 九条さんの前の席は、絶対俺が取るぞ。足を進めながら俺は友人達に目を向ける。


 そしてお店に着いた。外装はパステルカラーの男子だけでは入りづらいイタリアンレストラン。手頃な値段でピザやパスタ、デザートが食べられるということで、女学生に人気なお店とのこと。


 春輝以外の男子は緊張のせいか、喉を一回鳴らす。そして、震える手で店の扉を開けた。


 店に入れば爽やかな笑みを向ける店員さん達。先に女子達が入っていることを伝えると、席まで案内してくれた。


 そして足を進めていくと、少し奥の方にある大人数用の席が見えてきた。そこに女子達が並んで座っていて、俺達を見つけるなり、手をヒラヒラと振った。


 九条さんと美来の好感度は100、如月さんは35と変わらず。九条さんの友達は20と少し低めだった。


「こっちこっちー!」

「おまたせーっ!」


 五美達が満面の笑みを浮かべながら、席に座っていく。自然な流れで、前から順番に奥に座っていく形になったが、幸運なことに俺は九条さんの前の席をゲットできた。


「それでは揃いましたし、始めましょーっ!」


 五美、すごい張り切ってるな。仕切ってくれる人がいるのはありがたい。とそんな感じで食事会が始まった。


 始まって早々、五美達の連携が始まる。互いの長所やらを褒めあったりと、アピールが凄まじい。九条さんの友達二人は「へ、へぇ」と苦笑い。如月さんに至っては、真顔で話を聞いていない様子だった。


 美来はというと、春輝の真ん前に座って、ずっと春輝と喋っている。必然的に俺は九条さんと話をすることに。


「なんか、すごいね」


 すごい抽象的なことを言ってしまった。しかし、何が言いたいか九条さんには伝わった様で「そうだね」と笑顔で返事をしてくれた。


 と、そんな感じ食事会の時間が進んでいく。俺ももっと会話しなきゃと思っていると、九条さんが話しかけてきた。


「すごい楽しい」


 照れ臭そうに言う九条さん。俺もすごい楽しい。勇気出して誘って良かったな。


「俺も楽しいよ」


 そう言って笑顔を向けると、九条さんは小さく笑う。


「ふふ。なんかこういうの初めてだから、余計に舞い上がっちゃって」


「俺も! なんていうか、どうすれば良いか分かんないっていうか!」


 ちょっと興奮気味に言ってしまったが、九条さんは微笑んでくれる。本当天使。と、みんなで会話を楽しんでいると、九条さんの友達二人が席を立った。


「ちょっとトイレ行ってくるねー」

「私もー」


 いきなり二人が席を離れてしまった。となると、五美達の標的は必然的に如月さん一本に。怒涛の質問攻め、過剰な自己アピールに如月さんのこめかみに青筋が立ち始める。


 これは噴火しそうだ。や、ヤバイな。如月さんの恐ろしさを知る俺は、逃げるように席を離れることにした。


「ちと、俺もトイレ!」


「あっ! 私も」


 そう言って九条さんも席を立った。男子同士の連れションは何度も経験してるが、女子とは初だ。いや、トイレは別々なんだけど。


 と、自分にツッコミを入れていると九条さんが横に並ぶ。目線だけを向けると、バッチリ目が合ってしまった。すると微笑む九条さん。


 か、可愛い。好きだ。


 と、飽きもせず見惚れていると、トイレ前に着いた。そしてトイレに入ろうと、ドアノブに手を伸ばす。すると女子トイレ側から会話が聞こえてきた。


「本当、七瀬くんカッコいいよねー」


「うんうん! しかし桐崎も、たまには役に立つのね。金魚の糞でも使い用ってとこかな」


「本当それな。桐崎が周りウロついてると話しかけるのも一苦労だし」


 その会話を聞いた九条さんの手が止まる。そして、俺の方に振り向いた。その顔は、何というか悲しそうだった。


「き、桐崎くん……」


 潤んだ瞳に申し訳なさそうな表情。別に俺としては、今更何も思わない。こんな事はよくあるのだ。


「ああ、今の? 大丈夫大丈夫!」


 できる限り大袈裟な笑みを浮かべる。俺は傷付いてない。だから安心してほしい。しかし、俺の思いとは裏腹に九条さんの目に涙が浮かぶ。


「と、友達が酷いこと言って……ごめんね」


「ははは、大丈夫だって! 本当、これよくあることなんだよ。何なら中学の時なんて、面と向かって言われたこともあるし」


 半分おちゃらけて言ってみる。しかし、九条さんは、首を大きく横に振って席の方に戻っていってしまった。


 俺を思って泣いてくれたのかな。優しい人だな。なんか心が痛い。別に俺が傷つくのは構わないんだ。俺が関係して、九条さんが傷ついてしまったんじゃないかって思う方が辛い。


 席に戻ると、九条さんは席に座って俯いていた。如月さんは何かを察したのか、心配そうな目を向けている。そして俺が席に着くと、如月さんは俺を睨んできた。


「ちょっとあんた、桃華に何かしたの?」


「えっ?! いや何もしてないよ!」


 ヤバイ! 如月さんは、九条さんのことになると冷静さを失う人だった! と焦っていると九条さんは如月さんの肩に手を置く。


「結衣ちゃん、大丈夫なの。ちょっとコンタクトがズレて」


「え? そ、そうなの? そうならいいんだけど……」


 九条さんの一言に如月さんは落ち着いてくれた。すると九条さんの友人二人が戻ってくる。それから、さっきみたいな食事会が再開したのだが、俺と九条さんだけは、ちょっと気まずい雰囲気になってしまった。


 そして、そのまま終わってしまった食事会。会計を済ませ外に出ると、五美が拳を突き上げて声を張る。


「二次会どこ行くよー?」


 その声に九条さんの友達はボーリングの提案をする。それに対して、五美達は食いつくように頷いた。


 目線をずらせば、まだ落ち込んでいる様子の九条さん。どうすれば安心してもらえるんだろう。そう悩んでいると、如月さんが話し始める。


「そういえば桃華、今日は用事があるんじゃなかったっけ?」


「えっ?」


 その問いに九条さんは、驚いた様子で目を見開いている。しかし、如月さんはそれを無視して続ける。


「女子一人減っちゃうのもあれだし。桐崎、送ってやんなよ」


「え? お、おう。それじゃ行こっか」


 こうして俺と九条さんは、みんなと別れた。九条さんは、ずっと不思議そうな顔をしていたけど、俺には何となく分かる。きっと如月さんが気を使ってくれたのだろう。


 目的もなく二人並んで歩いて行く。このまま帰ったら後悔しそう。もう一度勇気を出すんだ。


「九条さん、喉乾いちゃったんだけど、カフェとかどう?」


「え! う、うん。いいよ」


 何とかオッケーがもらえた。そして、ちょいと歩いた先にあるカフェに入ることに。そして飲み物を頼んで席に座った。


 てか、ショートとかトールって何だよ。


「いやー、しかし合コン凄かったね! 五美達のアピール面白かったし! てか、用事の方は大丈夫?」


 少し大袈裟に明るく振る舞う。すると、九条さんは少し憂いを帯びた笑みを浮かべる。


「用事はないの。桐崎くん……ごめんね。気使ってくれて」


「あぁ、気にしないでよ! よしっ、んじゃ今から俺と九条さんだけで二次会しちゃおうよ」


「うん」


 そう言って頷いてくれた九条さん。その笑顔は、まだぎこちないというか、まだ何かが引っかかっている感じ。安心してもらうためには、もっとアピールしなくては!


「さっきのことなんだけどさ。あの……トイレのこと。本当、気にしてないよ。んーなんなら、俺もそう思うことがある!」


 前のめりになって言うと、九条さんは訳が分かってないのか疑問を浮かべる。


「なんていうか、ほら! 気になる人に話しかける時って、その人が一人の時の方が好ましいじゃん! 俺も九条さんが友達と一緒にいると、割って入れないしなーって足踏みしちゃうし!」


 言った後に気付く。これって遠回しに俺が九条さんのこと気になってるって暴露してるようなもんじゃん!


 鼓動が加速し始める。髪の生え際からは、じっとりとした汗が出てきてるような感覚がしてきた。


 すると、九条さんは頬を染めて、コクリと小さく頷いた。


「そ、そうだよね。私もそうかも。私が桐崎くんに初めて話しかけた時も、桐崎くんが一人になった時だったから」


「そ、そうなんだよ! だからこれは普通のことなんだよ! うんっ!」


 最後の一押しのように言うと、九条さんは曇りのない笑顔を向けてくれた。


 良かった良かった。これで一安心。


 しかし……九条さんもって……。いやいや、なわけあるか! ポジティブシンキングにも程があるでしょうに。


 それからというもの、俺と九条さんは、特に何か話すことなくドリンクばっかり飲んでいた。恥ずかしくて話せない。けど気まずさのようなものは感じなかった。そしてそのまま時間は過ぎていき、気づけば日も暮れ始めていた。


「さて、帰ろうか」


「うん!」


 満面の笑みで頷く九条さん。この感じ、俺達だけの二次会は大成功って感じかな!


 そんな嬉しさを噛み締めながら帰り道を歩いて行く。その嬉しさは家に着いても消えなかった。思い出すのは九条さんの満面の笑み。


 今日は枕を高くして寝れるな! そう安心しきっていたその夜。恐ろしいことに如月さんから電話がかかってきた。


 内容は勿論俺と九条さんの二次会についてだ。


 それから夜遅くまで、二次会の事を根掘り葉掘り聞かれたのであった。

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