第11話 合コン1

 そしてやってきた月曜日。月曜日をここまで嬉しく思ってしまうなんて、恐らく人生初だろう。


 いつもより二十分くらい早く起きて、朝の支度を進める。さあ、ワックスタイムだ。


 洗面台を占拠し、ワックスの蓋を開ける。そして指でワックスをすくって馴染ませる。確か、春輝はこうしてたな。


 や、やべぇ……。全然上手くいかない。


 鏡に映る自分を見て絶望する。パイナップルヘアーを作ってどうするんだよ。


 立たせた髪を一旦、ぺったんこにしてみる。すると、洗面台に母さんが入ってきた。


「あんた、いつまでやってんの? 美来ちゃんと春輝くん来てるよ?」


「えっ?! もうそんな時間?!」


 ポケットからスマートフォンを取り出してみると、もう出発する時間になってた。取り敢えず、不自然にならない程度に髪をいじって家を出ることに。


「お、おまたせ!」


 申し訳ないなと引きつった笑顔を向ける。すると美来は、俺の顔を見てプッと吹き出した。


「なに、その頭。竜巻でも来たの?」


「なっ……!」


 恥ずかしい……! 頑張ったのに!


 と狼狽えていると、春輝が歩み寄って俺の後ろに回る。


「見えてるとこだけじゃなくて、こういうところもな」


 春輝が俺の髪をいじり始める。確認することはできないが、きっと良くなったのだろう。


 そして学校に着いた俺たちは、ホームルームの時間がくるまでの間、雑談をする。クラスメイトはまだ半分も来ていない。すると廊下側から俺を呼ぶ声が飛んできた。


「桐崎くん!」


「九条さん! お、おはよっ!」


「おはよう」


 微笑む九条さん。この挨拶にも慣れつつあるが、やはり嬉しいものだ。そして、美来と春輝も挨拶をすると、九条さんが俺たちの輪に混ざった。


 それから、休日何してたかとかの他愛もない雑談を少しして、九条さんは教室を出ていった。


 九条さん、俺の髪型に気付いてくれたかな。いかん、気になってきた。


「ちょっとトイレ行ってくる」


 自分の髪型を確認しようと、俺も廊下に出た。すると、クラスでも割と親しい友人が、肩に腕を回してきた。


「なあ桐崎。最近、九条さんと仲良いよな?」


「え?! あー、そ、そうかな?」


 ヤバイぞ。この手の話題は、罵詈雑言の嵐が吹き荒れるやつだ! そう身構えてしまったが、それは杞憂だったようだ。友人は顔の前で手を合わせる。


「頼む桐崎! 合コン開いてくれないか!」


「ご、合コン? え、あの合コンだよね?」


「そうそう! 俺たちと、九条さんの友達で遊ぼうぜ! 頼む! このままだと俺の高校生活は枯れちまうよ〜」


「か、枯れちまうって……。まだ高校生活始まって二ヶ月経ってないぞ?」


 そう言うと、友人は呆れたようなため息をつく。


「あのな、スタートが全てだぞ? いい感じの男子、女子なんて、すぐソールドアウトだ!」


「な、なるほど。分かった。ちょっと話してみるよ」


 友人の謎の圧力に、俺は押されてしまった。まあ話すだけ話してみるかな。


 というわけで、一時限目を終えた俺は、九条さんのクラスへ行った。目が合えば、ご機嫌な様子で俺の元に駆け寄ってくる九条さん。


「あのさ、九条さん。その……」


 ま、待て。俺は、今から九条さんを遊びに誘うんだよな。そう思ったら緊張してきた。


「どうしたの?」


 そんな俺の緊張を知らない九条さんは、ニコニコと楽しそうに笑っている。


「あ、あのさ、俺の友達と九条さんの友達で遊びに行きませんか!」


 そう言いながら、脇を締めて前のめりになると、九条さんは目を見開いて固まってしまった。すると、九条さんの後方から只ならぬ圧が迫ってきた。


「ちょっと、それって合コンよね?」


「如月さん?!」


「あんたね、どういうつもり?」


「い、いや友達に頼まれて……」


 そう言うと、如月さんは目を細め、顎に手を添える。


「ふーむ、心配ね。その合コン、あたしも参加させてもらうわ」


「えっ?! ああ、うん大丈夫。あっ、と、その前に九条さん、遊びに行く件だけどいいかな?」


 そう問うと、九条さんは口を結んだまま力強く頷いた。迷惑じゃないか不安だったけど、九条さんの口角が上がっているあたり、大丈夫そうだ。


「そ、それじゃまた連絡するね」


 そう言って俺は教室に戻ることにした。そして、例の友人にオッケーが出たことを報告することに。


「九条さん、オッケーだってさ」


「おお! でかしたぞー! あー楽しみだ。九条さんの友達だ。可愛い子ばっかりに違いない! 俺はいつでも暇だからな。決まったら即連絡してくれよな!」


「はいはい」


 そう適当に返事をすると、友人は両手を勢いよく上げて、舞い踊りながらどっかに行ってしまった。


 嬉しそうで何より。とは言ったものの、俺も楽しみだ。九条さんと遊べるだなんて、考えただけでも楽しい。


 そして迎えた昼休憩。お昼の用意をしていると、九条さんが教室にやってきた。四人で机を囲んでお昼を共にする。しかし、こうしてお昼を一緒に食べるのも慣れてきたな。美来と春輝も、九条さんと自然に会話をしているし。


 そんな光景を眺めていると、九条さんが何か言いたげにソワソワとしだした。ちょっと気まずそう。


「あ、あの、桐崎くん。みんなで遊ぶことなんだけどね、その……友達から要望がきてて……」


「要望?」


「うん。その……七瀬君を誘ってほしいって」


 そう言って九条さんは春輝に目を向けた。すると、春輝が顔に疑問を浮かべる。


「ん? 冬馬、どういうことだ?」


「いや、五美いつみに頼まれてさ、俺と九条さんの友達で合コンしようって」


「なるほどね。んーまあ、行ってもいいけど。盛り下げたらごめん」


 そう言って春輝が歯を見せると、美来が机に勢いよく手をつく。


「あんの五美ゴミ! ちょっと冬馬! その合コン、私も連れてきなさいよ!」


「えっ……い、いいかな九条さん?」


「う、うん! 大丈夫……だと思う」


 鬼の形相の美来に、九条さんも顔を強張らせている。しかし、五美もその苗字のせいで損してるな。


 こうして、俺たち幼馴染組全員が参加することになった合コン。なぜか分からないけど、一波乱起きる予感しかしない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る