第二症状
第27話 なんかメーターみたいなのが見えるんだが
人の頭の上にハートマークが出現する。こんな生活が四ヶ月近くも経った。もはや、これが普通になりつつある俺だが、新たなる謎が出てきてしまった。
そう……九条さんの頭上に、ハートマークとは別に、メーターみたいなのが見えるのだ。他の人には無い。何故か九条さんにだけある。
昨日は、メーターいっぱい赤色だったのだが、今朝会った時はメーターの三分の一くらいで緑色だった。
これが示す意味とは何だ……。まあ、害はないから良いと思うんだけど。
そんな疑問を抱いたまま迎えた昼休憩。購買に向かおうと教室を出ると、入り口近くに九条さんがいた。
「桐崎くん、購買?」
「うん。一緒に行く?」
「うんっ!」
相変わらず可愛い笑顔だ。と、見惚れてしまう。ふと、九条さんの頭上を見れば、メーターは半分まで満たされていて、黄色になっていた。
わ、分かんねぇ……。
それから、昼食を調達して、教室に戻る。そして、いつものように、美来と春輝を交えて、四人で昼ごはんを食べようと席に戻った。すると、美来が意地の悪そうな顔をする。
「え? 二人で食べなくていいの?」
「は、はあ? ど、どういうことだよ」
「え、だってさー付き合ってんでしょ? 無理に私と春輝に付き合うことないし。てか、見てるこっちが、むず痒くなるんですけど?」
「は、はぁ……」
美来よ、どうした? やけに早口だし。九条さんが困った顔してるじゃないか。
すると、春輝が美来の方に顔を向ける。
「俺は気にしないからいいよ。まあ、美来も変な言い方しないでさ、一緒に食べようよ」
そう言って春輝が優しく微笑むと、美来は視線を落とした。
「ごめん……」
ん? 何でそんなに凹んだ顔する? 春輝の言い方、別にキツくなかったよな?
まあ……美来は俺達に気を使ってくれたのかもしれないし。ここは、美来の肩を持とう。
「うしっ! 九条さん! 折角だし、空き教室いこうよ!」
そう言って笑顔を向けると、九条さんは小さく頷いてくれた。そして、空き教室にやってきた俺と九条さん。
普段、昼休憩の時は、あまり人がいない空き教室だが、今日は先客が二組来ていた。男女のペア……。
これは、その……まさか……。
ゴクリと喉を鳴らし、取り敢えず席に着く。この前、九条さんとここでお昼をした時は、横に並んで座ったからな。今度は、向かい合わせにしよう。
九条さんが座ろうとしている席の前に机を動かす。そして、向かい合わせにして座った。
何故か目を合わせてくれない九条さん。口を結んで紅潮している。照れてくれてるのか……?! いや、自惚れてはならない。
ふと、九条さんの頭上を見ればメーターはいっぱいになってて、中身は真っ赤に染まっていた。そして、また上の方がプルプルと荒ぶっている。
なんか爆発しそうだな……。取り敢えず、食べようか。
「い、いただきます!」
そう言ってパチンと手を合わせると、九条さんも力一杯手を合わせた。
黙々と食べていく。付き合う前より、ぎこちない感じだ。九条さん、さっきから目合わせてくれないし。
「く、九条さん? だ、大丈夫?」
「う、うん!」
「そっか!」
そう言って笑顔を作る。すると、九条さんは、緊張が解けたような笑みをこぼした。
「ふふ。なんか、凄い緊張しちゃって。彼女ってどうするのが良いんだろうって考えてたら、分からなくなっちゃった」
そう言って照れくさそうに笑う九条さん。彼女……か。なんか、いい響き。逆に彼氏らしいって何だろう……。
「俺も分からないや。あはは。でも、そんな難しく考えなくてもいいんじゃないかな。したいようにすれば良いかなーなんて」
言ってて訳分からなくなる。あははと笑いながら後頭部をかくと、九条さんは頷いた。そして、モゾモゾと落ち着きなく動きだした。
「き、桐崎くん、その……今日一緒に帰れる?」
「うん! 帰ろっ!」
「ふふ、良かった! アイスクリーム食べたい!」
「うん、行こっか!」
そう言って笑顔を見せれば、嬉しそうな笑顔を見せてくれる九条さん。いつまでも見ていたいな。ふと、思ってしまった。
そして、待ちに待った放課後。廊下で待っている九条さんの元へ駆け寄ると、美来が俺を追い越す。
「九条さん! その……お昼のことだけど、ごめんね。邪魔者みたいな言い方して……」
申し訳なさそうに目線を落とす美来。九条さんは、優しく微笑むと、美来の肩に優しく手を置いた。
「ううん。気にしてないから大丈夫だよ。浅宮さんが気を使ってくれたの、嬉しかった」
「九条さん……」
九条さんの言葉に、安心したような表情を浮かべる美来。九条さんは微笑むと、何か思いついたような顔をする。
「浅宮さん! 今から桐崎くんとソフトクリーム食べに行くんだけど、一緒にどうかな?」
「えっ?! い、いいの?」
「うん! 桐崎くん、いいかな?」
唐突に振られる。二人が同時に俺を見るから、ちょっと固まってしまった。
「勿論。んじゃ、春輝も誘うか」
というわけで、春輝の元へ。
「春輝、ソフトクリーム行こうぜ!」
ビシッとサムズアップして誘う。しかし、春輝は申し訳なさそうな顔をする。
「悪い。今日は用事がある」
「そっか! んじゃ、また今度な!」
というわけで、俺と九条さんと美来という中々珍しい組み合わせで歩いていく。
靴を履き替え、外に出れば心地の良い涼しい風が、サラッと通り抜ける。
夏も終わり、秋特有の涼しくて気持ちいい気候。もう少ししたら日が赤くなるだろうな。日差しも程よく、なんかノスタルジー。
と、一人の世界に浸っている俺は、美来と九条さんが仲良く話している後ろ姿を眺めながら、足を進めていった。
しばらく歩いて大通りに出れば、目的地が見えてきた。何でも三十二種類ものフレーバーを用意しているという、変わったソフトクリーム専門店。
ポップな色使いの外装。俺だけでは決して入れなさそうな感じだ。美来と九条さんは、何も感じてないのか、慣れた感じで店に入っていく。
そして、店に入ってすぐに注文をするのだが、これが困った困った。どの味も美味しそうで目移りしてしまう。
そして、結局はバニラ味。なんというか情けない。
席に着くと、始まるのが女子同士の会話。いわゆるガールズトークというものなのだろうか。
適当に相槌を打ちながら、俺も会話に混ざる。すると、美来がぶっ込んできた。
「しかし、冬馬にも彼女かー。手繋いだりしちゃうんだねー」
「えっ?! て、手?!」
慌てふためいて変な声が出てしまう。横の九条さんは、耳を真っ赤にして、視線を落としている。
黙ってしまったじゃないか……。それに……メーターが真っ赤になって荒ぶっている。
もしかして……照れてる度数みたいなものなのか……?
すると、美来はそんな俺たちを無視して追撃を仕掛けてくる。
「え? するでしょ? それにくっついたりとか」
「く、くっつく?!」
想像してしまう。手を繋ぐ。肩をくっつけ合う。そして……。って馬鹿か! お、俺達はまだ高校一年生なんだぞ。そんな軽々しく……駄目でしょ。ゆっくり、大事にするんだ。
頬を叩き、深呼吸。すると、美来はからかう様に笑った。
「あはは、冬馬には無理か。てか、冬馬がそんなことしてるの想像できんし」
「ぐぬぬ……」
美来め。言いたい放題言いやがって。い、いつかはそういう日が来たりするかもしれないじゃないか。
それから静かになってしまった九条さんと、騒がしい美来とソフトクリームを食べて、帰ることに。
結構長くいたようで、外に出れば真っ赤に染まった夕日と、深い紫色っぽい雲が視界に広がった。
美来は本屋に寄るとのことで、店前で別れることに。その別れ際、少し寂しそうな顔をしていた。
「じゃあね、また明日」
「おう!」
「また明日ね」
九条さんと肩を並べて手を振る。すると、美来は小さな声で一言付け足す。
「なんか、羨ましくなっちゃうね。それじゃ!」
美来の後ろ姿。いつもの元気ハツラツとした雰囲気ではなく、どこか影があるような。気のせいだろうか。
と、美来を見つめ固まっていると、九条さんが、俺の肩を叩く。
「私達も帰ろ?」
「うん」
帰り道。二人黙って歩いていく。長く伸びた影が目の前に。まだまだ、ぎこちなさが残る俺達の間には人一人分の隙間がある。
ふと、思いだしてしまう。手を繋ぐ……か。意識しちゃうと、ちょっと距離を空けてしまうな。下心を見透かされるのが、恥ずかしい。
ふと、顔を九条さんに向ければ、九条さんもこっちを見ていた。顔を真っ赤にしているような。夕日のせいかな。
「明日から読書週間だね」
目を逸らして、俯きながら話してしまう。
「うん」
「九条さんは本って結構読むの?」
「たまに読むよ。ミステリーが好きなの」
「そ、そっか! 俺もこれを機に読書してみようかな!」
それからオススメの本とかを教えてもらいながら帰り道を楽しんだ。会話に夢中になっている時の九条さんは、とても自然で俺も自然になれる。
手を繋ぐとか、そういうのもいいと思うけど、それだけが彼氏彼女の証じゃない。いつかは、そういうのも自然にできるといいな。
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