第21話「久しぶりの再会です」
「太陽先輩、おひさ」
ヘリコプター(オスプレイ)に乗り込んだ僕たちを待っていたのは、大学時代の僕のあこがれであるマキナだった。
つまりは、リクの母親であり、宇宙人であるソラとの子供を信じられない方法で作り出した真正のサイコパス女である。
「まさか、マキナがいるとはね。何年ぶりかな」
ヘリの操縦席の裏側で、兵器特有の無機質な椅子に腰をかけてマキナは待っていた。
「そうね、4年ぶりかしら?」
そう、リクを預けて以来一度も僕はマキナ、それからソラに顔を合わせていないのだ。4年たって、マキナはさらに美しさを増したように思う。まあマキナを美しいと表現するのはもしかすると僕だけなのかもしれない、きつい目をしてるし、背が高くて威圧感がある。
それでも、芸術品のような美しさはこの4年でさらに増したように思う。ますます近づきにくくなったそんな印象。
そういえば今は大学の教授なんだよな。
「4年も子供をほったらかすとは、いい母親だなほんと」
僕は皮肉を忘れなかった、マキナと久々に会うことによる動揺隠しと言われても仕方ない。
「おかげで立派に育ってるじゃない。ビデオ通話とかで見てはいるけど、私の息子ちゃんとイケメンじゃない♡ リク、かっこよくなったねー」
もちろん僕と一緒にリクと最愛のマリナも乗り込んだのである。この親子会うのは一体いつぶりなのだろうか。
「やめろ、息子にかっこいいとか言い出すな、はずかしい」
そういいながら、リクはマキナと目を合わせようとしない。
照れているのだろう。
普通の7歳ならば、泣いて抱き着く場面なのだろうが、さすがリクは精神年齢も高い、思春期の男の子といったような反応を見せる。
「もう、変にませちゃってやだなあ。いいからちょっと隣に座りなさい」
そうやって、マキナは自分のシートの隣をポンポンと叩いて、リクに座ることを促す。
「なんだよ、もう」
そう不満を口にしながら、しぶしぶとリクは言われるがままにマキナのいうことに従った。
そして座った瞬間、マキナはリクの頬にチューをした。
突然の行動に反射的にリクは飛び上がる。
「な、なにすんだよ。母さん!」
「いいこにしてたしかっこよくなったから、ご褒美♡」
そうやってウインクを決めるマキナ、しかしこの手のご褒美を息子は決して喜ばないのを知らないのだろうか。
むむっ、そうかその手があったか。
僕もいい子にしているマリナにご褒美のチューをしてあげなけれ……
「私は結構ですからね、お父様」
マリナは僕の心が語り切る前に、声を出してその行動を制してきたのだった。そんなに僕の心は読まれやすいのだろうか。
「それより、なんで母さんがわざわざ直接ここに来たんだよ」
キスされたほっぺを手でこすりながらぶっきらぼうにリクが聞く。
「もう、いきなり味気のない話させんのね。さっき、ステイツから専用機で百里基地についたところなのよ。それで、この機体でつくばまで運んでもらうところだったんだけど、途中でソラが、このショッピングモールに寄れって連絡があったのよね」
百里基地っていうのは茨城空港の隣にある自衛隊の基地のことだ。どんな交通手段で日本に来てるんだか……。
「急に俺の居場所がわからなくなったからってことか」
「そうそう、まあそれにどのみち今日会う予定だったしね。サプライズで会いに行こうと思ったんだけど、それ以上にサプライズになっちゃったね。先輩も元気そう、どう?マリンとはうまくやってる?」
マキナは視線を僕に向ける。
「ああ、おかげさまでね、マリンも元気だ。それより一体全体何が起きてるっていうんだ。やはりこのショッピングモールでのテロ騒ぎと、この鎌女は僕たちを狙ったものなのか?」
ヘリの床には、AARで固められた鎌女が転がっている。なかなかひどい扱いをされてると思うが、3人を殺害した銃犯罪者だから仕方ない。
「一報を受けてあたしもそう思ったけど、このテロ騒ぎは全国各地で同時多発で起きたぽいのよ。全国の大型モールで同様の爆発事故が起きてるわ。通信障害もね。今のところ、御殿場、神戸、倉敷、仙台、札幌、鳥栖の6カ所、まさにエニウェア全国ね」
同時多発テロかよ……。しかもずいぶんとまとまりがないな。
「全部爆発事故なのか? 鎌女みたいな狂乱騒ぎもひょっとして?」
矢継ぎ早に僕は質問を重ねる。
「言ったでしょう、すべての地区で通信障害が起きてるのよ。詳細はまだ、ソラにも入ってきてないわ。今強引にソラ粒子を頒布することで、ムリヤリ通信回線を復旧してるけど、細かいことは全然わからないのよ」
いまだに粒子を使って通信するという原理がわからないけどな。まあでもすべての波は粒子であり、すべての粒子は波の性質をもつと聞いたことがあるし、うむ量子力学は難しい。
色即是空、空即是色。
質問は次にリクが引き継いだ。
「あの救急隊は本物か? ずいぶん行動が早かったが」
そうだ、通信障害の割には救急隊は迅速であった。僕のとっさの判断で、救急隊とか警察に身をゆだねることはやめたのだった。
「――そうね、救急隊に身をゆだねなくて正解だったと思う。もちろん、それが何かはわからなかったけれど、今回私たちの組織以上に素早く動くことは警察にだって、軍にだって無理なのよ。だからまあ、間違いなく今回のテロ騒ぎの関係者でしょうね」
大した自信だが、その自信がハッタリでないことを僕が一番知っている。ソラの元には世界の総資産の3分の1の資金とすべての情報が集まってるといわれている。にもかかわらず、ソラが作る組織自体は世界的に非公表であるし、国家の一部の人間位しか正式にはその存在を知られていない。
ではあるが、あらゆる国家のあらゆる組織にソラの作る組織は細胞として組み込まれている。何とも恐ろしい話である。
つまりは、そのソラの組織より迅速に行動し、かつその行動を把握されていない連中というのは、間違いなく今回のテロの関係者と言える。
そしてリクがマキナの発言の後を継いで言う。
よく聞けば二人の声はやっぱ似ているなあ。
「そして、こんなでかい事件を隠密にかつ、通信妨害まで行えるということは、間違いなく……」
「4年前ソラと戦ったあいつらの関係者と思っていいでしょうね。まあとにかく太陽先輩は今回お手柄よ。細かい話を聞ける相手つかまえてきたんだから」
そういって、マキナはにやりと笑みを浮かべながら、床に転がっている鎌女を見下ろした。
「黙秘できると思わないでね、自白剤なんかも使わないわ。ふふっ、久しぶりに楽しみね」
マキナ、性格は超ドS。研究のためにわざわざ、非合法な生物研究をしてるというバルナレアという国に移り住んだ経歴を持つ。
そこで、マキナはあらゆる生物実験を行ったと言われてる、拷問の研究もしていたとか――。
哀れなり鎌女……。人を3人も殺した君が悪いとはいえ、よりによってマキナの尋問にかかってしまうとは。
憐みの目で僕は鎌女を見つめる。
「勉強のためにリクも一緒にどう? よかったらマリナちゃんも?」
満面の笑みでマキナは二人に尋ねる。
「やめとく」
「……ご遠慮します」
ですよね。
娘なんてどれだけ愛したところで、ちっとも伝わらないので、お父さんは宇宙と戦います ハイロック @hirock47
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