第2話「娘が可愛すぎます」
「なぁなぁ、新しい依頼なら連れてってくれよ、太陽」
宇宙人の子供リクは、僕のことを呼び捨てで呼ぶし、一切敬語を使わない。
まったく教育がなってない、親の顔を見てみたい……。
ふぅ、あの親じゃ仕方ないか。
リクは今7歳、僕たちは彼が4歳の時から預かっている。
7歳にして、身長はすでに150ありものすごく長身である。すらっとしていて、髪の色はアッシュグレー(染めてるわけではない)、母親に似た鋭い目つきときりっとした鼻が特徴で、はっきり言ってイケメンである。
いま、ジャニーズに連れて行っても、間違いなく合格して、彼を中心としたユニットが組まれるに違いない。あるいは小学生向けのファッション雑誌とかの表紙になってもおかしくない。
生まれながらのハイスペックすぎて、うらやましい。いや、いっそ殺意さえ覚えるぜ。
そういや、口の利き方は親のせいって話したが、よく考えれば教育のほとんどはソラではなくて、僕たちがしたようなものなのだ。
うーん、僕とマリンが親じゃやっぱり仕方ないか。
「また、浮気調査だよ、ついてきたってつまんねーぞ」
残念ながらリクの提案は却下である。子供を現場に連れていくわけがないし、そもそも、こいつはうるさいし、ムカつく。
浮気調査って言っておけば、ついてくる気も起きないだろう。
しかし、リクは食い下がった。
「いーや、嘘だね。鼻歌の感じとか、表情。心拍数とか総合的に考えて今の太陽はいつもより楽しそうだ。事件だ、事件なんだろ?わかるぜー、つれてってよぉ」
リクは俺に近づいて、俺の背後から抱き着いて、こんな事をいいだす。やめろ気持ち悪い、小学生とはいえ男に抱き着かれたくない。
「人の気持ちを読むな、なんだよ心拍数ってどうやって計ったんだ?とにかくだめだ、大体小学生を現場に連れていったらおかしいだろ」
ちなみに俺は心拍数の話が冗談でないことを知っている。本気ならば、相手の心臓の音を聞くことができるらしい、どういう聴力をしてるんだろうか。お前はH×Hのセンリツか?
「……じゃあさ、女装するよ。現段階でもマリンより背高いしさ。自然自然、女助手ってことでついていけば、問題ないじゃんよ」
女装……、まあ、それなりに可愛くは見えるだろうけどよ。もし、この作品がアニメ化した場合、いらぬところにファン層を増やしそうで怖いな。
「とにかくだめだ、おとなしくスカイと遊んでろよ」
スカイは俺の長男である。ちなみにいたって普通の人間なので、身長は120㎝
程である。むしろ大きい方だともいえる。
「だって、スカイうるせぇんだよ。すぐ泣くし、ゲームもクッソ弱いし、相手にならないわ、さすが太陽の子供だわ」
「……。」
むかっ、そんなに人の子供を堂々とディスるんじゃねーよ。というかお前がおかしいんだよ、俺のかわいいスカイ君はいたって普通の子なの。
ちなみに二人は大体、イカのシューティングゲーム(すでに15シリーズ目くらい)をやってるのだが、リクはほぼ全国一位の腕前といっていい。というか、何をやらしてもそんな感じになってしまって、すぐ飽きる。
スカイがイカ好きのために、リクも付き合いで、イカげーをやってるだけだ。
とっくに飽きたゲームをやっているというだけで、リクとしては十分スカイや僕に気を使ってるらしい。
リクにとっては、スカイはできの悪い弟、スカイにはリクはすげぇ兄貴って感じか、そんなふうに僕には映っている。
ちなみに僕は一切そのゲームをやったことがないので、細かいことを言われてもぜんぜんわからないからな。
「マリナだって今夏休みだし、マリナとあそんでろよ」
長女マリナは小学6年生、今夏休みの最中で基本暇なはず。小6の夏休みなんてすることないからな基本的に。
宿題はとっくに終わったといっているし、マリナと遊んでればちょうどいいだろうに、そのついでにスカイの面倒を見てもらえると大変助かるのだが。
「……マリナ姉ちゃんかあ、マリナ姉ちゃんねぇ。それはなんかちょっとなぁ」
リクは最近マリナの話になると、どうも口ごもる。自分からマリナの話を出すことも少ないし、なんか避けてるような感じだなあ。二人になんかあったのか。
とちょうどそのタイミングである、ガチャと事務所のドアの開く音が聞こえた。
「ただいまぁ」
と事務所のドアを開けて入ってくる少女がいた。かわいい。
娘のマリナである。かわいい。
今日は、夏らしく、タンクトップで、ホットパンツなんだね。かわいい。
そういえば友達とプールに行くとか言ってたっけ。かわいい。
でもねその恰好は少し露出が多いと思うんだ。お父さんは良くないと思うぞ。
それに、あまり日焼けしちゃうぞ、肌によくないぞ、せっかくの美白を傷つけちゃうんだぞ。あぁかわいい。
「おかえりぃ、マリナ。大丈夫か変なおじさんにつけられたりしなかったか?」
「もう、お父様は心配し過ぎです。というか早く子離れしてください」
心配し過ぎなんてことはない。足りないくらいだ。
朝だって、僕は何度も何度もついていこうとした。子供たちだけでプールに行くなんてとんでもない。しかし、あまりのしつこさにマリナが少し厳しい顔つきになったためにあきらめたのである。
「リクさんもこんにちは」
マリナは天使のほほえみでリクにも挨拶する。もったいない、リクにあいさつなんてしなくたっていいんだぞ。
「……ぅっす」
不愛想にリクは返事をする。ほら言わんこっちゃない、こんな奴に愛想振りまいても無駄なんだよ、まったく挨拶もちゃんとできないのかこいつは、とはいえ僕は注意をしないのだが……。
「あぁ、お暇ならリクさん。勉強を見ていただきたいのです。今朝、考えていてもわからないところがあって、リクさんなら納得いく答えを出してくれるでしょう」
かわい過ぎるマリナは、事務所に入ると、応接用のテーブルにバッグを置いて何やら取り出そうとしている。なんだ、遊びの場にまで勉強道具を持って行ってたのか?
僕の娘は、えらいなぁ……。
「……ああ、ごめん。ちょっと俺は今から調べなきゃいけないことがあるからよ」
そういうとリクは、僕の座ってる場所の背後にある家につながる扉に向かって歩き出してしまった。いま、マリナが入ってきた事務所入り口とは反対方向である。
手をひらひらと振ってバイバイとやっている。
なんだなんだ、急にそっけないな。
「リクさん、最近ずっとあんな感じなんです。なんか、私と話すのを避けてるみたい……。なんかしたかなあ」
僕のマリナは非常に悲しそうな顔をしている。こんな顔をさせるなんて、なんだあいつは、居候のくせに生意気すぎる。製造主のところに送り返してやろうかな。
まあ冗談はさておき、確かにそんな感じだな。あとで、ちゃんと事情を聴いてやらなければいけないのかもしれない。子供事情に口だす気はないのだけど。
「まあ気にしなくてもいいだろ。第一次反抗期ってやつだ。……って、マリナ、勉強って?宿題は終わったとか言ってなかったけ」
僕の主義は子どもはよく遊べなのである、正直さっきはえらいなあと言ってしまったが、遊び場に勉強道具を持っていくのは感心しない。かわいいけど。
「お父様に言ってませんでしたっけ、私、S3プログラムを受けようと思ってまして」
「……なんだっけそれ?」
ゲームの見本市だっけ?
「……ふぅ、新時代のリーダー作るための総合的かつ専門的な人材を育てるプログラムです。12歳以下までしかチャンスがないので、今年が最後のチャンスなんです」
なんだそれ、総合的かつ専門的って矛盾がすごいな。
「なんで、それにマリナが挑戦しようと思ってるわけ?」
「んーと、この間、マキナさんから連絡あって、マキナさんがプログラムの講師務めるっていうから、興味あるし頑張ろうかなあって」
ほう、マキナが先生ねぇ。あいつもなんだかどんどん手が届かない人になっていくな。
「それって、難しいのか。金で何とかなる話なら、お父さんは全力で協力するんだが、塾とか行ったほうがいいか?」
めんどくさいこと言わずに裏金で何とかしたっていいからな。
「もちろん難しいですよ、難しいというか思考力とか表現力とかそういうの求められてるので、対応してる塾あるのかなあ。まあだからお金とかそういうのは大丈夫です。学費とかもかかりませんし、お父様はただ見守ってください」
……なんだかマリナもどんどんどんどん、遠くのところに行ってしまう。悲しい。もっと甘えてほしいのに、お父さんは何でも買ってあげるのに。
そもそもなんで、こんな品行方正に育ってしまったのか。「お父様」と言えなんて教育したことはないのに、いっそリクみたいに、太陽って呼び捨てにしてくれた方が、お父さんはうれしい。
ここで、我が家の教育方針を話したい。
僕とマリンの最初の子供であるマリナに対して、僕たちが心配したことは性格の面である。僕もマリンも極度のドМであり、「どうしよう?娘がさらにひどいMになってしまったら、絶対悪い男に騙される」と二人とも本気で心配していた。
僕も妻のマリンも二人ともすぐ怒られるような環境の家で育った。そのせいで、僕たち夫婦は、どちらも非常に受け身の性格になったのではないかと結論づけた。
ならばと……。
「マリナは思い切りわがままに育てよう」と思ったのである。
わがままに、そして可愛く育てて、性格が悪くたっていい、優しくなくたっていい、ただ自分の欲望に正直なお姫様のような子供に育てたいと思ったのだ。
ところがどうだろう、意に反して真逆の人間に育ってしまった。家の手伝いはよくするし、何も言わずに勉強している。最近ではなくなったが、2,3歳のころは、僕はいつもマリナに質問漬けにされていた。
正義感も強く、マリナは絶対自クラスのいじめを許さない、というか、マリナのクラスでいじめは起きない。いじめるやつはマリナに嫌われてしまうからだ。
わがままを言うことなんてまったくない、おねだりされたことは何かあっただろうか。唯一のお願いは、7歳のころである。
「私はもう一人でお風呂入れますから、お願いだからお父様は一緒に入らないでください」というお願いだった。
全僕が泣いた、あんなに悲しかったことは人生でなかったといっていい。今だって僕は娘と一緒にお風呂に入りたいというのに。
誕生日もクリスマスプレゼントもなんだか、高いものは要求してこないし、あげく去年なんか「お父様、あんまり子どもに何でも物を買い与えるのは教育によくないと思います」とか言われてしまった。
お父さんはとてもかなしい、お願いマリナ親離れしないで!
とまあ、マリナは全く思わぬ方向に育ってしまったのである。
なんかどっちかっていうとリクみたいな性格の女の子に育ってほしかったのになあ。まあ、でもマリナはかわいい、とてもかわいい。彼氏なんて連れてきてみやがれ、お父さんはな、大泣きしてやるからな。
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