第13.5話「レイナさんはめんどくさいです」後編」
「レオ君を僕にください……」
「な、なにを言ってるんですか??レオは男の子ですよ!た、太陽さんにはそんな趣味があるんですか、あんな綺麗な奥さんがいて! 信じられない! 金があれば何でも許されるとか思ってるんですか? まじ、サイテー!」
レイナさんはケダモノを見る目つきで、ぼくにむかって容赦のない罵詈雑言を浴びせまくってきた。いい過ぎじゃない、この人? そこまで言うか?
まあ、俺の言葉が足りなかったね。
というか、説明になってないわ。
「お、落ち着いて下さい。もちろんそんなつもりはありません。あの、たしかレオ君ってもう高校生で、それで剣道やってましたよね」
「な、なんで、剣道のことしってるの?やっぱレオのことを」
「ち、違いますって、部屋に篭手と竹刀置いてあったじゃないですか、分かりますよ」
まずい、レイナさんは思い込みが激しいタイプなの忘れてた。
「……あ、ああ、そうですか。あとレオはまだ中3です。それで、剣道がなにか?」
「中3ですか。なおさらいいです、僕たちは今、セキュリティのスペシャリストを作る学校を経営してまして、そこに入ってみたらどうかと思いまして」
「……セキュリティですか?進路のことはレオに聞かないとわかりませんけど、それがどう関係あるのでしょう?」
そうだな、なかなか説明が難しい。
「うちのリクわかりますよね」
「……イケメン君!」
「そうです、あいつは実は預かってる子なんですけど……」
「太陽さんの子じゃなかったんですか!?」
そういって大きくレイナさんがうなずいた。何かにすごい納得したようだ。
「知人の子で、あいつは、あれでも結構な要人なのです」
「ヨウジン……?」
「ビップ、大切な人間なんです、だから将来的には信頼できるボディガードが必要なんですよ。レオ君は身体も大きいし、頭もよさそうだ。今のうちから鍛えてもらって、最終的にリクのボディガードをレオ君がやってくれれば安心なんです。もちろん、危険もあるので、本人次第なんですが」
リクはあれで要人である、今は僕が守っている。そのほかにも見えないところで警備が動いている。
ソラはパルナレアという国で私設の軍隊も持っているが、こと日本において、活動させるわけにもいかない。そこで、日本では金にものを言わせて、最新鋭の警備会社を作り、リク周辺をこっそりガードしているし、国内での有事に備えてる。
しかし圧倒的に人材が足りない、日本においてはそういった教育は全くされないので、通常の人間では、ロボットとか新しいガジェットを使った新しいタイプの犯罪に対応するのが難しいのだ。現に、今回警察はステルス迷彩に対してなんの対応もできていなかったし、ソラが所有する警備チームも同様だった。
こういう事態に備えてソラは3年前からセキュリティのための学校を作った。3年間で徹底的にサイバーセキュリティをはじめ、護衛術や語学まで身につける。護衛術には、格闘技や射撃訓練も入るし、さっき僕が使ったAAR(硬化樹脂弾)のようなギアの訓練も行う。
しかも、授業料は完全無料。望めば、高収入の大空警備保障株式会社に就職できるのだ。
しかし、この教育を受けた人間がすべてリクのボディガードとして適してるかというとそうではない。信頼のおける相手でなくてはならないのだ、最も大事なのは、いざというときにリクのために動いてくれるかである。
レオ君にはしばらくの間リクの近くで生活していただき、そしてお互いの信頼を高めあってほしい。それができるなら、レイナさんの家賃だとか生活費とか見るのは、かなり安い買い物だといえるのだ。
さて、レイナさんの返事はどうか。
「うーん、悩みます。私の独断で決められることではないし、子供に警備なんて仕事をしてほしいとも思わないけど、結局レオがそういう仕事に興味があれば、だと思うので、レオに聞いてみないと……。結果だめなら、多少危なくてもあのマンションに帰ろうと思いますので、ほんとう、迷惑はかけられないし……」
あーっ、めんどくせー。しまったなあ、良かれと思った提案が真逆だったよ。
困るんだってあのマンションに戻ってもらったら、例の組織がもし本当に4年前の残党なら、少しでも俺らとかかわり持った君たちはただじゃすまないんだよ。
まあそんな事情分からないだろうけどさ。
いっそマンション燃やして、住むとこ無くした方が早かったかも。
「とりあえず今日は全員揃ったら一緒に食事でもして、その時にレオ君とも話してみましょうか。ちょうど8月だし、進路を決めるような時期ですからね」
「は、はあ、分かりました」
なんだかとても不服そうにレイナさんはうなずくのだった。
まあとりあえず飯でも食おうぜ。
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