第4話「みんなの大好物、密室です」

「あれ、また、下着がなくなってる……。」


 さて、僕とレイナさんは一緒にマンションに来た。そして僕が、部屋の間取りをチェックしてる時にレイナさんの声が洗面所から聞こえてきた。

 慌てて、僕はレイナさんのところに向かう。


「ど、どうしたんですか」

 レイナさんは、洗濯用のかごから衣類を取り出しながら言う。


「そ、その帰ってきてから洗濯しようと思って、バスケットに入れておいた下着がなくなってるんです。絶対、朝はあったはずなのに……」

 な、なんだって!

 ぬ、脱ぎたてということか……


「間違いないんですか」


「ええ、お気に入りのやつですし。間違いないの……。一応言っておきますが息子は学校ですからね!」

 

「分かってますって!それにしても、僕に会って戻ってくるまでの間って、せいぜい2時間くらいですよね?その短い間に……?」

 先ほどのファミレスからこのマンションまで徒歩で10分もない距離である。そして、僕らがファミレスで話していた時間はせいぜい1時間。

 そんな、短い間に朝あったはずの下着がなくなるなんていうことがあるだろうか。レイナさんの思い違いじゃないかと思いたいが、それを追求したら機嫌悪くなるだろうしなあ。


 しかもこのマンションは、オートロックなのはもちろんのこと、監視カメラや巡回型のドローンが多数設置されている。もし不審者がいたら、すぐにでも警備会社に通報されるようなタイプのものである。

 それに部屋の鍵も、通常のロックに加えて、指紋認証まで搭載されている。都心部のマンションとしては、現在通常のレベルのセキュリティだが、それをかいくぐるのは並大抵のことではない。


「でも、絶対にあったはずなのに。帰ってきたら洗濯しようと思ってたんで、すごい覚えてます。どうしよう……、すごい怖いです探偵さん」

 そういって今にも泣きそうな顔を見せるレイナさん、30を過ぎてるとは思えない幼い表情に見えて、とてもドキッとさせられた。こりゃあ、たくさんの男が虜になったのだろうなあと思わずにいられない。


「ないとは思いますが、まだ犯人はこの部屋にいるかもしれませんので、くまなく部屋を探してみていいですか?それと、ビデオ撮影もしたいのですが」

 僕のかけている色の薄いサングラスには、グラスに映像情報が流れる他、カメラ機能も搭載されている。基本的にスマートフォンと同等の機能は全部搭載されている上、太陽光充電もされるので、電池切れの心配もないという優れものだ。

 とくに目新しい商品でもなく市販もされてる。ただカメラ機能について、市販のものはいろいろ制限されるのだが、そこは僕のは特注である。


「もちろん構わないです」

 そうやって、レイナさんの許可は得たけど、実はさっきからずっと録画はされっぱなしである。

「あと、レイナさんは、このマンションの管理人に頼んで監視カメラをチェックさせるよう頼んでください」


「あっ、はい分かりました」


 レイナさんは快諾して、スマホを取り出した。管理会社にかけるのであろう。

 僕は、それを確認して部屋の隅々をチェックし始める。怖い話ではあるが、犯人がまだこの部屋に滞在したままで、ベッドの下とか、クローゼットに潜んでるかもしれない。少なくともマンションの玄関から、10階のこの部屋まで、僕たちは誰にもすれ違っていない。

 可能性がある以上それは追求するのが探偵だ。

 

 まあ、とはいえそれは杞憂だったようで、犯人の気配はこの部屋にはなかった。


 ベランダも確認したが、ベランダに行く扉は内側から2重ロックされていて、誰かが出たという気配はない。言うまでもないことだが、玄関のドアもがっちりカギがかかっていた。窓という窓にもしっかりロックされている。いや、トイレの滑り出しの小窓だけは施錠されず、少し開いていたが、いくら何でも出入りはできまい。


 こ、これはまさか……。あれか、あれなのか。


 探偵ならば一度はあこがれる事件。


「密室か!?」


 僕は思わず大声でその単語を口に出してしまった。

 密室である!

 古今東西ありとあらゆる名探偵が、挑み続けてきたあのトリックがついに僕の前にも表れたのだ。やはり探偵の話である以上、密室は避けられないと、そういうことなのだろう。この謎を解いたあかつきには、僕は探偵としてスターダムへのし上がる道筋が用意されてるに違いない。

 20年(2020)代最後の明智と呼ばれるかも。


 これはぜ!


 殺人事件ではなく、下着泥棒だというのがスケールダウンしてる点だが、密室事件であり、女性が困ってるということには違いない。

 ふふふふっ、楽しくなってきやがった、いやぁっお!!


「ど、どうしたんですか、さっきからぶつぶつと……。」

 ふと、レイナさんが不審そうにこちらを見ている。


「だ、大丈夫です。これは大変な事件かもしれませんと、思ってつい考え込んでしまいました」

 いかんいかん、思わず笑みと声が漏れてしまっていたのかもしれない。


「ならいいんですが……。あの、監視カメラの映像に関してはデータにして私に送ってくれるそうです」

 僕が実は犯人なんじゃないかという目をしていたが、それはやめてくれたようだ。

「そうですか、では送られたらすぐに私の方にも、そのデータを転送してください」

 僕は平静を装う。


 現在のマンションでは、監視カメラの映像は入居者の請求があれば自由に見ることができる。もちろん自分の部屋の周辺と、マンションの入り口に限り、エレベーターなどは他人のプライバシーにかかわるので請求できないのだが。

 まあ、もっとも、僕はすべての映像を盗み見ることができる、これも友人の宇宙人ソラのおかげである。


 そして間もなく、僕のサングラス型端末に映像が届いた。

 さて密室事件を解決してやりますか。

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