第17話「かくれんぼをします」
「レオ君とりあえず急いで逃げるぞ」
「ど、どうしたんすか。何があるっていううんすか一体」
鎌をもった女が、男の首を切ったなんてことを説明す余裕はないし、スカイが泣いてしまう。
「とにかく僕についてこい」
とはいえ、この場でダッシュして離れたら、あの鎌をもった女が走って襲い掛かってくるだろう。
僕はゆっくりその場を離れて、たくさんのベッドが並ぶ、べッドとべッドの間に自分の姿が見えなくなるように、うつぶせになる。
「ほら、レオ君もうつぶせになって、ここからは
言われた通りにレオもスカイも、ベッドの陰に隠れるような恰好を取る。
「いったい何をしてるんですか、太陽さん」
「ちょ、声が大きい……。不審者がいるんだよ、出入り口のあたりに」
「ふ、不審者!」
馬鹿が声が大きい。僕はあわてて、レオの口をふさぐ。とはいえまだ相当距離はあるので聞こえてないと思うが。
「いいな、スカイ。頑張って泣くなよ。停電が終わったら好きなもん買ってやるからな」
コクっと、スカイは黙ってうなずいた。
するとひそひそ声でレオ君は僕に聞いてきた。
「不審者って言っても、この暗闇の中で動けるんですか」
「……たぶん停電の原因もあいつじゃないかな、目的がなんだかわからないけど。もちろん俺と同じものをつけてると思う」
「スターライトスコープですか……」
そうおそらく、あの鎌女も闇の中で動けるはず、この姿勢のまま今いる場所から少しでも遠ざからないと。しかし問題はこの姿勢では、僕から鎌女の位置が把握できないということだ。
いやだぞ、見上げたらそこには鎌を構えた女が立っているとか、ホラーすぎるぜ。
なんで、こんな展開になってしまったんだよ。
相変わらず、電波は不通のまま……。電気も普及しない。
恐怖に覚えながら、僕たちはベッドの隙間を
すると再び、『ぎゃあーーーー』というかなんといも言えない悲痛な男性の悲鳴が背後から聞こえた、悲鳴がさっきと同じだな。今度は声がさっきより近い。またしても、あの鎌女が人の首を刈り取ったのだろう。
後ろを振り返るが、ベッドが邪魔をして何も見えない。そこにスカイが頭を上げて様子をみようしたので、慌てて頭を抑え込む。
「いいか、スカイ。絶対ベッドから頭を出そうとするなよ」
うんうん、と黙ってスカイはうなずいた。
とはいえ、相手の様子は何とかうかがいたい。どうにかして…‥。
そこで、はっと思いだして僕はバッグからあるものを取りだした。筒状のソラ粒子発生装置のSPIM(Sora Particle Injection Machine)である。
これの設定をいじって、一定の速度以上で近づいてくる物体があったら音声で反応するようにしておけば、少なくとも近づいてくるときにはわかる。あとはうまくマーキングして常に相手の位置を把握できれば最高なんだが。
僕はSPIMを起動させて、周囲にソラ粒子をばらまく。このソラ粒子を認識できるのは今のところ僕だけのはずである。
まあはずである。ていうのは、もし、相手がもし認識できてることはまぁまずないんだけど万が一あったらいやだなぁ位のニュアンスであるので、ほぼそんなんことはないはずである。
僕たちはそのまま匍匐ですすみ続ける。
鎌女が近づいてくる音は聞こえない。もし近づいてくれば、音声でピーンという音が聞こえる。距離が近づけば近づくほど、そのピンという音の間隔は小さくなる。
僕たちはベッドの隙間をさらに匍匐ですすみ続ける。しかしどこまで進めばいいのか。ベッドコーナーを抜けて、右に進めば東館に向かう扉があったはずなので、とりあえずそこに向かっているが、出入り口が封鎖されている可能性はだいぶ高い。
何よりそっちは爆発音が聞こえてきた方向で、さらに、リクたちが向かった方向でもある。
マリナは大丈夫だろうか。
リクがいるならば、まあ大体のことは対応するであろうが、爆発に巻き込まれてないことを祈るのみ。すぐにでも東館へ向かって駆け付けたいが、今は後方の鎌女の方が危険だ。スカイも守らなければいけない。
するとふたたび
「ひゃーーーーっ」という音が聞こえた。鎌女の方からに違いない。また一人、犠牲者が……。
音の大きさはあまりさっきと変わらないが、こちらは進んでるにもかかわらず音が変わらないということは、鎌女もこちらに向かってきてるということだろう。
まあしかし、少なくとも僕たちが狙われてるというわけではなく、手あたり次第にで会った人間の首を刈り続けてるのだろう。闇の中をひっそりと進み、出会った人間の首を刈り続ける存在……。怖すぎる。
本当なら大声で叫んで、「不審者が凶器をもって徘徊してるからみんな走って逃げろー」と言いたいところだが、リスクが高すぎる。
逆上して、さらに被害者が増えそうだ。
とはいえすでに3人死んでるのを見過ごすのもつらい。まあどうせ他人の命なのだから自分とスカイだけ逃げられればそれでいいのだが、少しくらいは僕にも公共心があるのだ。
僕たちが狙われてないのなら、一度ベッドの下にもぐってこの場をやり過ごして、相手の背後を取るか。
幸いAAR(速攻で固まる硬化樹脂)も持ってるし、足さえ狙えば動きを封じることができるだろう。
「レオ君、そこのベッドの下にもぐってやり過ごそう」
僕は隣を匍匐ですすむレオ君に向かってささやく。
「ちょっと待ってください、何が起きてるんか教えてくださいよ」
僕は少し考える、が時間もないのでありのままを言う。
「大きな鎌をもった女が人を殺そうと徘徊している。僕たちのことは見つけてないようだから、ベッドの下に隠れよう」
「そ、そんな超やばいやつじゃないですか。じゃあさっきからの悲鳴って、人が死んでるんですか?そんな、止めないと!」
僕は、彼の口に前に指をあてて、しーというポーズをし、そうして、そうじゃないという風に首を振った。
「まずは、自分の命だ。それから他人を守ることを考えればいい。このAAR銃を渡しておくから、もし自分の身に危険が及んだ場合には、相手の足元を狙って足止めしろ」
僕は予備で持っていたAARの発射装置をレオ君に渡した。
「こんなんどうやって使えば?」
「大丈夫だ、FPSと変わらない。射程は5m、必ず2発以上撃ってくれ。3発当てれば相手は確実に動けない」
とまどいながら、レオ君は銃を受け取って、ベッドの下へと潜った。
この暗さだ。
ベッドの下の人間に気づくことはないだろう。そして僕は、レオ君のとなりのベッドの下に身を潜める。僕の位置の方が鎌女に近い位置にいる。スカイは僕の方に着いてきたが、目配せで、レオの方にいけと合図をした。
僕は場合によってはこれから、鎌女に対峙しなければいけない。とてもじゃないがスカイを守る余裕がない。
ここは、レオ君とともに何もないまま逃げ切ってほしいところだ。スカイは不安そうに僕からはなれ、レオ君とともにベッドのしたにもぐった。
そのとき、
ピーン
というかん高いおとが僕の耳に響く。
いよいよ、やつが近づいてきた。ここにくるまでおよそ30m。
ピーン…………………ピーン………………ピーン
徐々に感覚が狭くなる。昔セガサターンのゲームでこういうのあったなあ。
ピーン…………ピーン……ピーン
大分近づいてきた。視線を右の方に向けると鎌女の足元が見える。ゆったりとした歩調で近づいてくる。
この距離からでもAARを発射して、足止めすることもできるが、念のために過ぎるのを待とう。ピーン……ピーン…後ろから狙い撃つのが一番良い。
ピーン…ピーン…ピーン…ピーン
もうはっきりと足元が見える、なんだこの女この状況でヒールはいてやがる。
ピーンピーンピンピンピンピンピピピピピピピピピ……
足はもう目の前にある。手を伸ばせば届く距離に足がある。
でもおかしいな、足が動かない。僕の隠れてるベッドの前で、ぴたりとその進む足を止めた。まるで僕がここにいることに気づいてるように……。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
「かくれんぼは楽しいかしら」
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