第18話「へんな女が趣味なのかもしれません」

 言葉と同時に僕の隣に、大きな鎌の刃がぶち刺さった、ベッドを貫通してだ。もう少し位置が左だったならば、僕の耳は完全にそがれ、耳なし芳一の仲間入り、いや花の慶次の耳みそぎ野郎のコレクションにくわえられていたに違いない。

 反射的に、僕は真横に転がってベッドの外に出た。

 転がりながら身体を起こし、片膝をついた体勢で鎌女に正対するポジションをとる。

 絶体絶命。

 すでに鎌女は、ベッドに突き刺さった鎌を抜き、自分の頭上に構えている。一歩踏み込んで、真横に振るえば、その鎌は僕の首をはねるに違いない。


 まずは落ち着いて鎌女の様子を見る。

 目の前にいる鎌女は、ちょうど耳を隠すくらいの短めのヘアースタイルでなぜか固めには黒い眼帯をしている。服装はメイド服、まるで何かのコスプレのようだが、それがなんのコスプレなのかはわからない。

 まあしかし、なかなかの美形だ、年齢も20前半と言ったところか。気ちがいじみた格好をする痛い子と言うのは嫌いではないので、もし僕が独身ならば付き合うこともやぶさかではない。すでに目の前の女が二人の人間を殺しているということに目をつぶればだが……。


「目的はなんだ、金ならばなんとかするから、鎌をふるうのはやめろ」

 狂人に説得が無意味なのはわかるが、とりあえず、しゃべることで時間を稼ぎたい。この間にできれば、レオ君はスカイを連れて遠くに逃げてほしいのだが、わっかってくれるかレオ君……。


「……目的なんかないわ、体がこうすることを求めてるのよ。それより、なんで私から隠れようとしたのかしら?私のことなんて見えてなかったはずなのに」

 案の定、まともな答えは返してくれなかった。身体が人殺しを求めるような狂人ならば話は分かりやすいが、残念ながらただの狂人が、このショッピングモールを停電にするような手段を持ち合わせてるはずがない。

 狂人のふりだろうな。


「それはむしろ、こちらが聞きたい。なぜ、僕がこのベッドに隠れてることが分かったんだ? 見えてないはずだろう」


 ぱっと見る限り暗視ゴーグル等をつけてるように見えない。それともあの眼帯が実は多機能で、暗視ゴーグルも兼ねているのか?ますます、メタルギアだな。

「そんなことに答える必要ないのだけれど、冥土の土産、いえ、メイドの土産に教えてあげるわ。ふふっ、言ってみたかったのよこのセリフ。さらに冥土とメイドをかけてみたのだけれど、口頭じゃ伝わらないわね、フフフフフ。」

 かなり口角を上げて、自分のダジャレに笑う鎌女。いかん、変な奴だ。こんな状況じゃなきゃ、恋をしてしまうかもしれないレベルだ。

 

「あら、なんの反応もしてくれないのね。とにかくメイドの土産に話しておくと、私とっても耳がいいのよ。歩きながら、匍匐でごそごそ進むあなたの音がはっきり聞こえてきたわ。わざわざ、わたしから隠れて進むなんて気になって仕方ないわ。だからあなたから殺すことにしたの」

 そういって鎌女は、鎌をもつ手をぎゅっと握った。それにより一瞬、鎌がびくっと動く。やばいやる気か!? なんとか、会話を繋げないと。


「殺す相手は無差別なのか、だれでもいいのか」

「……ええ、誰でもいいわ。男でも女でも」


 ……そうか、少なくても俺とかリクが狙われたってことじゃないのか。


「メイドの土産っていうのを、もう少しくれ。僕の名前は太陽だ、死ぬ前にせめて誰に殺されるかぐらいは知りたい、君の名はなんだ?」

 そういった時、すこし鎌女の表情が緩み、鎌をもつ手から力が抜けたように見えた。

「名前ね、名前ーんー、私の名前なんだったかしら? 忘れちゃったぁ」

「わすれた?」

「わすれたのーっ、あー、もうおしゃべりはおしまい、ひゃーーーーーーっ!!」

 そういって鎌女は急に叫び声をあげたと思ったら、鎌を後ろに振りかぶった。

 

 やべぇくる。

 ってさっきまでの叫び声は犠牲者じゃなくてお前だったのかよ!

 だが、そこまで大きく振りかぶるのならば、十分に時間はある。それに、相手が鎌を持ち上げたまま、おしゃべりを続けていたので、きっと腕につかれが来てるはず。

 鎌女が鎌のバックスイングを取ると同時に、左足で思い切り床を蹴って後方に駆けだす。

 視線は切らない、鎌女を見ながら鎌女との距離を取る。

 鎌女は思い切り、大鎌を空振りして、その鎌のスピードと重量に自身が引っ張られるようになりながら、くるっと一回転した。いや正確には一回転しない、足元だけががっちりと固定され、上半身が鎌に引っ張れる形で、半回転して半身になる。


 そしてそれを見ながら、僕はポケットに忍ばせていたAARを構えて、鎌女の足に

向けた。だが、その必要はなかった。

 すでに鎌女の足元では、彼女の高いヒールを丸ごと包み込むように赤い樹脂が固まっていたのだ。すでにAARは放たれていた、それゆえに足元が動かず彼女は上半身だけが変なひねりをした。

 

 ここからは見ることができないが、そうかレオ君がやってくれたのか。僕が鎌女と簡単なトークをしている間に、レオ君はしれっとAARを彼女の足元に向かって放っていた。ベッドの下から、虎視眈々と機会を狙っていたに違いない。

 

 てっきり逃げるものだと思っていたが、なるほど素直にお礼を言わせてもらおう。結局のところ、慌ててバックダッシュせずともよかった。

 

「なんだ、これは?おまえ一体あたしに何をしたんだ?」

 ヒステリックな声で鎌女は僕に向かっていう。上半身をくねらせて、腕の力だけで大鎌を振りまわす、しかしその半径1mの攻撃は僕にはもちろん届かない。

 何も答えずに、鎌女の肩から肘に向かってAARを撃ちまくる。関節を完全に固めて、鎌を全くふるえなくなるように。


「やめろぉ、女の体に何をするんだ」

「鎌を振りますような人殺しが、都合のいいときだけ女を主張するなよ」

 動けなくなった鎌女に近づきながら僕は言う。

 

「さて、色々聞かせてもらうぞ、鎌女」

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