第19話「娘が話をしてくれません」
鎌女の動きは完全に封じることができた。
果たしてこの女の目的は、なんなのか。いったい誰の差し金でこんな行動に出たのか。
まあ考えるまでもなく、4年前の戦争の関係者なのは間違いない。そうでなければ、このソラの支配下にある街の施設を停電させ、あげく通信障害まで起こさせるなんて芸当はできないからだ。
と、通信障害はずのところ、耳元に連絡が届いた。
「おじさん、そっちは大丈夫か、何か異常は」
声の主はリクだった。
おまえより娘の声が聞きたいがとりあえず答えよう。
「大丈夫っちゃ大丈夫だけど、いろいろ大問題が起きてる。気狂いが鎌を持って暴れて、軽く3人死んだ。僕たちは無事だけどね、そっちは何ともないか? マリナは無事か」
「ああ、マリナねーちゃんも俺も大丈夫だ。近くで爆破があった時にはさすがにびっくりしたが、俺たちは大丈夫。でも爆破に巻き込まれた人は結構いる……」
やっぱ、あの爆破音はマリナたちのいる館で起こったものだったか、とりあえず二人が無事でよかった。
「いったい、何が起きてるんだ。通信が戻ったってことは、ソラにも連絡がついたんだろう? 絶対4年前の連中だと思うんだが、だったらこのままじゃまずい」
もし4年前のやつが原因ならば、狙いは僕、そしてリクだ。
「いや、通信が戻ったわけじゃないんだ。親父とはまだ連絡が取れない」
ソラと連絡が取れないだと?
「なら、どうやって?」
「おじさん、ソラ粒子をばらまいただろう?その反応をこちらでもとらえた。俺の方でもソラ粒子を頒布して、いまはソラ粒子を介して通信してる。だから、おじさんとは連絡できるが、それ以外は全然だめだ」
なるほど、まったくソラ粒子は便利だ。
その使い方は説明されてなかったが、結果、ソラ粒子をまくことでリクと連絡を取ることができて出来てよかった。
「……しかし、こんな長時間、停電と電波妨害が続くものか? 案外、ソラの危機管理も怪しいね」
「親父のせいだとも思えないよ。もし、4年前の関係者だとして、こうもすぐ俺たちの動きがトレースされてるとは思えない。そんなに甘くない、この街のセキュリティは。おれにもさっぱりわからないね」
天才のリクをもってしてもわからないことがあるらしい、というよりは父親のミスを認めたくないだけか。
「こっちで、とりあえずその鎌をもって暴れた女を拘束することに成功したから、とりあえずはそいつにいろいろ聞いてみる」
目の前にはAARで拘束された、大鎌使いのメイド服がいる。特にこちらに対して関心がないのか目をつむったまま開かない。まるで眠っているかのようだ。
「おぉ、太陽おじさんすごいな。そんなやばそうなやつを取り押さえたのか? 武闘派にはとても見えないけど、さすが昔格闘技をやってただけはあるね」
リクにそんな話をした覚えはないのだけど、親父の入れ知恵なのだろう。僕がキックボクシングをやっていて強い体であるなんて言うのはもはや黒歴史なのだが、さすがソラは息子を通しながらそれをいじってくるか……。
「そんなことはどうでもいいけど、どうだいリクたちは移動できそうかい?」
爆破事故があった現場だ、相当パニックになってそうだが。
「いま、救急隊員と警察が駆けつけて、周囲の誘導を行ってるところだ。変に目立つ動きをしても仕方ないし、おとなしく従っておこうと思う。合流は後になるかな」
よかった、救急隊員とかがもう駆けつけてるか。
さっきはディスったものの、さすがこの街の危機管理はしっかりしてるな、救急隊の迅速さは日本一かもしれない。
ん……まずいな警察も来てるってことは、こっちにもすぐ駆けつけるだろう。そうなるとこの鎌女は引き渡されるし、僕もめんどくさい聴取をされるに違いない。ソラとさえ連絡がつけば、根回しできるのに、電波妨害されてる状況じゃそれも無理か。
と、一応ソラとの通信できないか、確認をするものの、やはり電波は遮断されてる。
とここで、あることに気が付いた。
「おい、リク。そこにはもう救急隊員が来てるんだよな?警察も」
「……ああ、4人くらいの警官が、客を誘導してる。救急隊員はさっきの爆破でケガした人を担架で運び出してるな。人数はそんなに多くない」
リクから聞こえてくる音声の背後で、時折大声を出す救急隊員のような存在があることが知れる。しかし。
「救急隊が早すぎないか、この通信障害のさなかだぞ。リクがソラと連絡とれていないのに、誰が救急隊を呼んだんだ?」
この通信障害の範囲がどれほどかはわからないけれど、ソラが通信を回復させるより早く一般人である救急隊がここに向かってくるなんてことがあるだろうか。
善意の救急隊だと考えるのは難しい……。
考えすぎかもしれないが、その救急隊はまさに騒動の原因とは考えられないだろうか。
通信装置越しにリクの息遣いが聞こえる、2,3秒の沈黙の後リクが答えた。
「……たしかにそうだ、おじさんの言う通りだ。俺としてたことがうかつだよ、あの救急隊はおかしい。いや、ぱっと見全くおかしくはないが、この状況は矛盾しかない。通信手段無しでここに来たにしては早すぎる。太陽おじさんが気づけたことに俺が気づけないなんて……」
さりげなくディスられてる気がする。
僕だっていい大人なんだし、一応探偵なんだから、細かいことは気にしてるのさ。まあそれでも、リクがそんなことに気づかないというのは、らしくないと思うけど。
「確かなことはわからんが、救急隊と警官に素直に従うのは得策じゃないような気がするな。なんとか、救急隊の目を盗んで、建物から抜け出せないか?」
「……ああ、なんとかしてみる。とりあえず、この建物の構造はわかってるからな」
「頼んだよ、マリナを守ってやってくれ。……マリナとかわってくれないか?」
一番大事なのは、マリナの無事である。
本当は今すぐにでも、マリナのところに向かいたいが、二人がどこにいるかもわからない今はリクに任せるしかないが、声だけでも聴きたい。
「ああ、分かった……。――マリナ姉ちゃんから伝言だ。お父様の言いたそうなことは大体わかってるから、さっさとその鎌女から情報を聞き出してくださいだとさ」
「な、なんだと!?」
こんな危機的状況ですら、お父さんと会話をしたくないんだね、マリナ。
……お父さんはこの上なく悲しいよ。
「私は元気ですと伝えてと言われたよ。太陽おじさん、まあ元気だしなよ」
「余計なお世話だ……いいから、この通信回線は切るなよ」
本来ならば怒りを向ける相手はマリナ自身なのだろうが、僕はそんな思いは封殺する。この悲しみは、リクとそして目の前にいる鎌女に向けるしかない。
僕は鎌女をにらみつける。
「さて、洗いざらい話してもらうぞ」
ん、さっきも似たようなことを言って気がするな。
鎌女はAARで固められたまま、身じろぎもしていなかった。
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