第16話「息子と買い物をします」
「それにしてもリク君っていうのは本当に7歳なんすか?」
娘に振られた僕は、スカイとこのレオ君と一緒に家具コーナーをめぐっていた。
「ああ、間違いないよ。あいつは、間違いなく規格外の天才だ、遺伝子レベルで違う、現時点で日本中の誰よりも頭がさえるぜ。多少きつい言い方することも多いが、年上として生暖かい目で見守ってくれ、別に悪気があるわけじゃないし、基本はいいやつだよ」
がらにもなく僕は、リクをかばってしまう。
「そういうことじゃなくて、7歳にしちゃ大きいなあって思っただけなんすけど」
「……ああ。それはなんでかはよくわからないけどな。レオ君だって結構大きいよな」
「俺だって、7歳くらいはスカイ君より少し大きい位っすよ、リク君はどう見たって14、15歳くらいじゃないっすか。話をしたらそれすら疑いますけど」
そりゃあなあ、そもそも地球人じゃないし……。
まあそんなことは言わないけど、でもわかるぜレオ君、君のいうことは。
僕のマリナに恋をしてしまったレオ君の一番の恋のライバルとして、完全にリクを意識してるってことだよな。
心配するな、俺の目の黒いうちは、誰にだってマリナに指一本触れさせる気はない! それはレオ君、君にだって容赦ないんだ。マリナはずーっとパパのことを大好きな女の子で、それこそほんの5年前までは、パパと結婚するって言ってたんだぞ!
リクが来たあたりからあまりそれを言わなくなったけどな。
今日だって、マリナは僕よりリクをえらんだ……。
……。
それはない、マリナがリクを好きだなんていうことはあり得ないし、僕はそれを許さない。
「くそがっ!」
「!?急にどうしたんですか、太陽さん?」
どうやら僕は何かを口にしてしまったらしい。とても不安そうな目で、レオ君は僕を見ている。心配しないでほしい、僕は常に冷静である。
「いや、何でもない、ところで寝具を買いに来たのはいいけど、レオ君のセンスで選んでしまっていいかな? レイナさんうるさそうだけどなぁ……」
相変わらず、変な人を見る目でこちらを見るレオ君に話しかける。
「ああ、逆に母ちゃんのセンス入れないほうがいいっす。あの人の趣味に任せると大体全部ピンクになっちゃうんで、見たでしょあの部屋のベッド。俺、正直もう母ちゃんのセンスが限界っす」
そういや、あの部屋の透明人間が寝てたベッドはすげーピンクで統一されてたな。
「あれは、レイナさんのベッドかと思ってたけど、レオ君だったの?」
「……いや。まあ母ちゃんので、俺は普通、居間で布団敷いて寝てるんすけど、母ちゃんが酔っぱらってソファーで寝ちゃったときとかは、あのベッド使うんすよ。だから大体あのベッドは俺が使ってます」
なかなか、母一人子一人の生活は大変そうだな。そうか……逆に部屋がなければ、同じ部屋で寝るとかしかなかったのか。下手にマリナに部屋を作ってしまったのは失敗だったのかもしれない。
勝手に部屋に入ったらすごい怒られたしな。
とまあ、レオ君とベッドやら、布団やらを物色してると、突然、あたりが真っ暗になった。
文字通りの闇。目が慣れず一瞬だけ、隣にいたレオ君の姿ですら黒く染まった。
壁に張り付く非常灯だけが目につく。
「停電ですか?」
隣からレオ君の声が聞こえる。
「た、たぶん……、だが、あり得ない」
この施設はに限らず、市内の施設は外部電力ではなく、再生エネルギーとその蓄電によって賄っている。それゆえに、外部要因による停電は非常に考えづらいのだ。
少しずつ目が慣れてきて、うっすらと周囲が見えるようになってきたし、手を引いているスカイの姿も見えてきた。よしよし今のところ泣いてないな。
「おかしい、なかなか、明かりが復旧しないし、なんのアナウンスもないなんて……」
遠くの方で、店員らしき人物が、周囲の客に『すぐ復旧しますのでご安心ください』と伝えてるのが聞こえる。このフロアーは、寝具エリアでたくさんのベッドの展示品が並んでるために比較的広い。
50m位はずらーっとベッドが並ぶ空間が続き、そこでいったん仕切られている。完全なドーム型の店舗で、外の光を差し込むような採光窓がなく、見渡す限り薄暗い空間が続いてしまっている。
排煙口があるはずだからそれを開けば、光が入るはずだが、今のところどのスタッフもその作業する気はなさそうだ。
とりあえず、リクたちに連絡を取るか。
「リクにコール」
僕は、腕のエアフォンにそう指示をする。
『電波不通のため、通信できません』
しかし無情にもエアフォンはそのような返事を返してきた。
――ば、馬鹿な、たとえ富士の樹海でも通信が途絶えるはずがないんだぞ、僕の持つ通信機器は!
もう一度試しても、結果は同じだった。
「太陽さん、俺のやつもダメです、母ちゃんにもつながらないし、緊急通信も入りません」
メガネに搭載されてる通信装置もつながらなかった。
「なにが、起きてるんだ。絶対に自然災害的なものじゃないぞこれは」
「じゃ、じゃあなんだっていうんですか」
「分からないが、とにかく僕の近くから離れないでくれ、スカイもおれの手を離すなよ、分かったね」
僕はそういって、左手に握られてるスカイの手をぎゅっと握った。
「……うん。こわいよぉ、お父さん……」
僕は腰をかがめ、スカイの頭を撫でてやる、うっすらとスカイの顔も見える。まあ、心配はいらない、この緊急事態をソラやそのネットワークはいち早くとらえていて、すぐに電気の復旧は行われるはずだ。
「太陽さん、それにしても、出入り口の光が見えないっておかしくないですか。確かに今日は曇りでしたけど、出入り口から外の光が見えたってよさそうなもんじゃないですか」
確かに見えていいし、それがあればそこに向かって出ていけばいいだけなのだが。
それにかれこれ5分近く経過してるのに、いまだに電気が復旧しないなんてことがあるだろうか。
「もしかすると、出入り口が封鎖されてるのかもな。確認しよう、レオ君。僕のシャツでもつかんで、ついてきてくれ」
「入り口に向かうんですか、確かにうっすらと非常灯の周りとかは見えますけど、それでもほとんど真っ暗ですよ」
レオ君の言う通り、確かに非常灯のおかげで、ある程度様子は見えるが、それでもうっすらとしか見えないので、よほどこの建物の構造に詳しくなければ歩き回るのは得策ではない。
「僕のこのメガネには、スターライトスコープ機能もあるから大丈夫だよ」
そう、この程度光があれば、何倍にでも増幅させる機能が僕の眼鏡にはついている。はっきり言って暗闇に関しては何の問題もない。
とその時、
――――ドーンッ
という爆発音が、建物中に響き渡った。そしてわずかに地面が震える。
「な、なんだ?」
「外の音っぽいですね、爆発っすか?」
その音を合図に、ざわざわという客たちの声が館内中に響きわたる。僕はスターライトスコープであたりを見まわすが、とりあえずこの館内で爆発のような形跡はなく、客たちもそれほど慌ててはいない。
スカイもぎゅっと僕の手を握っているが、泣かずに堪えているようだ。
その時、
『グアァーーーーッ!!』
と急に男の声でかなり大きな叫び声が、僕たちの背の方から聞こえてきた。
ぱっと僕は振り返る。すると、50m先位で一人の男が膝をつけて倒れこむような姿が見えた。
叫び声の原因は今倒れた男か?
慌てて、僕はスコープの倍率を最大にして、その男を見る。
そして、僕はそこで目にした。
首から先がなくなったまま膝をついて動かないその男の姿。
それからその首のない男と同じくらいの大きさの鎌をもった人の影を、倒れこむ男の背後に見た。
その影は長い髪をしており、右手でその鎌をもち、眼前に刃を構えていた。
暗くてよくわからないが、その女は一瞬こちらを見て笑ったかのように見えた。
僕は震えた……。
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