第8話「一人で眠るのが怖いです」
「おはようございます、よく眠れましたか」
翌日、というか8時間後の午前10時にだいぶ眠そうにしているレイナさんに朝の挨拶をした。
「……あぁ、おはようございました。ごめんなさい、まだすっぴんなんで、あんま顔見ないで」
「あぁ、すいません」
レイナさんは言いながら顔面を片手で覆う。すっぴんでも十分美人だとは思うけど、うちのマリンもすっぴん見ようとすると怒るし、女性とはそんなもんなんだろうな。
「いいベッドですねぇ、シモンズですか?すごくよく眠れました」
「買ったのは妻なんでちょっとわからないですけど、ええと朝食作ってあるんで、あとでダイニングの方にどうぞ」
マリンが作った簡単な朝食が用意してあった、トーストに、目玉焼きとか本当にそんな簡単なものだが、マリン的にはすべてこだわりの逸品らしい。卵とか一個100円するらしいんだけど、正直僕が違いを感じたことはない。
「あ、ありがとうございます。あとで、いただきます。えっと、レオはもう学校行きましたか」
「えぇ、一応、うちからだと学校まで行けるか心配だったんで、リクを一緒に行かせました、大丈夫でしょう」
基本的にはレイナさんは夜のお仕事なので起きるのが遅い、くわえて僕たち夫婦もテキトーに生きてるので、起きるのがいつも9時とか過ぎてしまうのである。
なので子供たちは勝手に朝起きて学校に行くのだ、しっかり者のマリナは何と全員分の朝食まで作るのである。今朝も、寝ている妻のマリンをよそに、マリナはきっちりレオ君の朝食まで作っていた。
「リク君が一緒ですか、なんかごめんなさい。いろいろお手数かけちゃって。でも助かります、ほんとう畑さんに紹介してもらって良かった」
「まあまあ気にしないでください、どうせリクも暇ですから」
ちなみにリクは学校などに行っていない。小学校に行ったところで何の勉強にもならないし、特殊な外交ルートでパルナレアという国から僕たちが預かってる身分なために、戸籍もない。それゆえに学校に行く義務がない。
もっとも学校に行こうものなら可哀そうなのは、その先生だろう。
ところで、レイナさんにはリクが何歳くらいに見えてるだろうか。すでに身長150cm以上あるが、あれで7歳だと知ったらびっくりするだろうな。
☆ ☆ ☆ ☆
そしてその日の午後、僕はレイナさんからカギを受け取って彼女のマンションに向かった。
レイナさんには、僕の家で妻と談笑でもしてもらうことにした。一応僕の家にいる限り、誰かに襲われるようなことはないだろう、我が家は金と技術にものを言わせたハイパーセキュリティハウスなのだ。身を守るうえでは最も安全なのが我が家である。最も身を守る相手は下着泥棒なんだけどね。
さっそく、昨日リクから受け取ったゴーグルでマンション周辺は探ってみたが、それっぽい対象は見つからなかった。もちろん、僕の家の周辺にもそれはなかった。
ならば、家主が留守であることを利用してマンションに、またも忍び込もうとしてる可能性がないとはいえない。
一応、レイナさんのマンション内を探るべきであろう。
ゴーグルをかけながら、注意深く周囲を警戒しながらレイナさんのマンションの中に入っていく。ゴーグルをつけたおっさんって字面はだいぶ怪しいけれど、ゴーグルというかほとんどサングラスなので、そこは心配しないでほしい。
マンションのエントランスホールに入る。平日の昼間ではあるが、人影はない。宅配関係の人間も見当たらないようだ。
そしてゴーグル越しにも、ソラ粒子に反応するような影はないようだ。
今回ソラ粒子は、動体にたいして付着するような設定にしてあるので、今僕のゴーグル越の視界では、ネコでも、犬でも人間でも、何粒かのオレンジ色に発光する粒がくっついてるように見えている。
もちろんこれらオレンジの粒は肉眼では確認できない。
はじめは町ゆく人々にオレンジの粒がくっついてみえるのは気持ち悪かったがもう慣れた。
そして、もし光学迷彩を着た透明人間がいるならば、オレンジの粒だけが動いてるように見える。
もちろん、今のところそれは確認できていない。
「リク、どうだ?いるか?」
僕は、エアフォン(腕時計型のスマホ)のハンズフリー機能でリクに話しかける。
「いないね、屋内なんじゃないかな」
同時に空中のドローンからも撮影しながら同様の作業をしているが、こちらの作業はリク任せになってる。さすがに一般人の注意力では、無数の人がうごめく東京の街から該当する対象を見つけるのは困難だ。
エントランスホールでエレベーターを待つ。
降りてきたエレベーター内にも、人はいないし、ゴーグルにも反応はない。
よかった、扉があいた瞬間はち会ったりしなくて……。
もし、反応があった場合の対処は何気に難しく、向こうからしたら、僕がなにかリアクションしてるのは変なのだ、気付かれてるわけがないのだから。それゆえに、もし対象をみつけても気付かないふりをしなければいけない。
それにしても見えない敵を追いかけるというと、何とも大変な捜査をしているようだが、実はただの下着泥棒を追いかけるだけなんだよなあ、かなり悲しくなる。たかが下着を盗むためだけに、ステルス迷彩なんて使わないでほしいものだ。
リクの話では、もし下着泥ちゃんのステルス迷彩が想像通りのものだとすると、1着100億以上は間違いなくかかるらしい。
どんな金持ちの下着泥棒なんだよ……。
さてレイナさんの部屋の玄関の扉についた。
預かったカギを差し込み、指紋認証代わりのパスワードをパネルに打ちこんだ。
カチャっと、開錠される音が聞こえた、慎重にドアノブをひねる。
開かれた扉の奥には、昨日見た時と同じ光景が広がっており、あまり片付けられてないキッチンとやたらキャラクターグッズが置いてあるテレビ台が目に入る。
ぱっとみたところ、特に荒らされたような形跡はなく、昨日レイナさんとここをあとにしたときのままのようだ。
僕の持つバッグの中にある金属の筒からは常にソラ粒子が噴射され続けてるが、とりあえず、ダイニングと、キッチンにゴーグル越しに確認できるものはいないようである。
一応寝室も見てみるか。さすがに白昼堂々他人の部屋に忍び込む犯人がいるとは思えないが。
そして、寝室のドアを開けて、ベッドの上を見た瞬間である。
ゴーグルにはオレンジ色の粒が作る人間の姿が映っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます