第23話イメージ
電光石火の見本のような素早さでマリモが迫る。
「行くぞ」
「信親君、退きなさい」
「邪魔だよ。ノロマ。一緒に撃っちまうぞ」
「ああ、もう。好きにしろよ」
信親が地を這うようにして、二人の背後へ回ると、早速射撃が始まる。晶は周囲の腐女子に当たらないよう慎重に、虎子はお構いなしに、M1短機を放った。
数十発の弾丸が、マリモの体に吸い込まれていく。
「大して効かぬわ」
その身に多数の十一・四ミリ拳銃弾を受けたマリモは、動きを止めたものの、ダメージは限定的にしか与えられなかった。
「そんな」
「化け物め!」
「フンッ」
マリモが刀を一薙ぎすると、避けたはずの晶と虎子が後方へ弾き飛ばされる。信親の頭上を越え、二人は長机の列に突っ込んだ。
薄い本と紙幣が宙を舞い、巻き添えを食った腐女子と紙の束に埋もれる二人の様子を見て〝人って飛ぶんだ〟とか〝晶さん大丈夫かな。血が出てなかったから心配ないよね〟とか、色々な感想が信親の頭の中で。湧いて出てきた。
「わたしの隊服も、服の下に着こんだ鎧も、腐動明王様から頂いた腐宝。少々口径が大きくても所詮は拳銃弾。貫通などしない。さて、次は貴様だ。首を刎ねて、仏生寺に届けてやろう」
自分を裏切った自称幼馴染と、大学で跳躍した過去を思い出し、信親の脳内で、放物線を描いた晶と虎子のイメージが重なった。
気が付けば、信親の手には、二メートルほどの棒が握られていた。
棒には金属板が巻き付けられ、鋲が幾つも打たれていた。南北朝時代に使われた、金砕棒だ。
なぜ金砕棒? と、疑問が湧いたが、理由はスグに理解できた。
大学での跳躍と、弾き飛ばされた晶たちの様子を見て、野球を連想したからだろう。安直かつ短絡的な自分の思考に嫌気を覚えながら迫りくるマリモに向けて、振った。
金砕棒は、外見からくるイメージより遥かに軽かった。
自分でも信じられないようなスイング・スピードで、金砕棒はマリモの脇腹に命中した。
マリモの体は、百数十メートル離れた大市場の壁、その天井付近まで飛ばされていた。
誰かが、ポツリと呟く。
「ホームランだ」
野球経験のない信親が、思わず一塁ベースへ走らないといけないかなと、首を巡らせた。
当然、一塁ベースも二塁ベースも、白線だってあるはずもない。驚きつつも子供のような笑顔で笑う晶と、口を結ぶ虎子、そして、背後から迫る敵の増援は、間違いなく存在していた。
敵の増援は、マリモと同じような格好をした十数人の腐浄士だった。
腐気を使って武器を作り出した反動で、体の動きが鈍い。とりあえず迎撃すべきか。とおもかく逃げるか。腐気を取り込んで力を貯めるか。迷っている間にも、敵が近づいてきている。
と、袖を引っ張られた。
たたらを踏んで、袖を掴む主を見る。さきほどマリモに殺されそうになっていた腐女子・ホモ山ゲイ太郎だった。
「こっちです。ついてきて」
「お前は、いったい」
「助けてさし上げると、言っているのです」
先ほどまでのオドオドとした態度は、すっかり消えていた。
戸惑う信親だったが、他にいい対応策も思い浮かばないという迷いもあり、意を決してついていく。
「信親君、どこに行くのよ!」
「桐山警部、あてなんてないんです。とりあえずついていきましょう。どっちにしろここから逃げないと」
晶と虎子も後に続いてくれた。
敵の増援が、薄い本を販売している腐女子や長机をなぎ倒しながら近づいてきている。
「逃がすな!」
「一人は生かせ。他は殺してもいい」
「チッ」
ホモ山は舌打ち一つすると、物騒なセリフを吐く敵に向けて、筒状のモノを投げつけた。
筒状のモノが床に落ちて二秒程度で、灰色の煙をまき散らし始めた。
煙は瞬く間に周囲へと広がり、視界を遮った。
「三人ともついてきてください。はぐれたら回収はできませんからね」
腐女子たちの悲鳴がとどろく中、ホモ山を先頭にして、信親たちは大市場を脱出した。
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