第25話やすらか
信親たちが腰を降ろす間に、香住は台所へ向かう。台所と言っても、狭いシンクとヤカンの乗ったカセット・コンロがあるだけだが、地下では素敵な空間だ。
香住が、ダンボールに入ったミネラルウォーターを取り出し、ヤカンに注いだ。
数分で湯が沸き、一口大の茶饅頭と、紙コップに入れられた緑茶が出された。
「粗茶ですが」
「こいつはありがたい。いただきまっす」
「いただきます」
「一応、礼は言っておこう」
香住に礼を言い、信親たち三人は緑茶を飲み、茶菓子を楽しむ。緑茶は安っぽく、茶饅頭の餡は少ないが、地下世界では贅沢品だろう。香住の配慮をありがたく思った。
一息つくと、目が霞み体は重くなった。
もしや、薬でも盛られたかと思い香住を見る。緑茶も茶饅頭を、美味そうに摂取していた。
疲労がたまっていただけだったようだ。
無理もない。ずっと緊張状態だった。おまけに戦闘をこなして逃亡中だ。
疲労と緊張状態が解けたのなら、眠くもなるだろう。
「皆さん、お疲れのご様子。三十分ほど仮眠をとりますか? なら。布団と毛布の予備を出しましょう。どれも薄いですが、ないよりましですから」
「俺は、お言葉に甘えるよ。でも、毛布だけでいい。布団を敷くのは面倒だ」
「無線機で報告をしてから、わたしも寝るわ」
「……」
信親は、毛布を受け取りさっさとくるまった。
流石に元柔道のオリンピック強化選手だけあって、晶はまだ余裕がありそうだ。
虎子は、既に寝ていた。
晶が無線を操作する音を聞きながら、目を閉じた。
そういえば、腐気で出した新選組の対服、まだ消えないんだな。あとどのくらいもつんだろう? 疑問に対する思考を保てた時間は、僅か数秒だった。
意識を放棄して、信親は眠りについた。
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