第4話 腐女子の流儀と大きな胸
「皆さん、入って入って。天草色の白兎亭へようこそ」
小さな体の白兎が、繁茂した茶髪を大きく揺らしながら〝天草色の白兎亭〟なる部屋に、信親たちを招き入れた。
事務所のはずだが、四角いテーブルとカウンター席の並ぶ、喫茶店風の造りとなっていた。
ただ、白兎が都心の持ち家でも紹介するかのように、自慢気な態度で紹介した割には、薄汚かった。
使われていない席には、漫画でも描いているのか、ペンを持つ陰気な顔の女と小汚い少女が、血走った目で、紙を睨んでいる。観葉植物の置かれている棚の中には、漫画雑誌や原稿用紙・インク・ペン先、洗剤、乱雑に積み上げられた肌着や下着、果ては、邪神のような酷い造形の像などが押し込まれており、混沌とした雰囲気を形成していた。
空気も汚れており、埃と人の皮脂を思わせる臭いが漂っていた。
信親は、クレームをつける客のような大声で毒づく。
「うわ! 汚いな、おい」
「いや、ノブ待って。一部は掃除されているね。小汚いって表現があっているんじゃないかな」
「正確な日本語表現、ありがとう」
信親が薫と会話を楽しんでいると、扉をあけ放った本人である白兎が、悲鳴を上げた。
「ギャアアッ! 青狐、黄猿、どういうことよ!」
すると、ペンを持ったまま白紙を凝視していた薄青髪の女と金髪の少女が、迷惑そうに顔を上げた。
「あの、店長。小さな癖に、大きな声、出さないで欲しいのですけど」
「白さん。あたしらは、腐の神さんが降りてくるのを待っとるんよ。邪魔せんでくれます?」
「白兎って呼んでって、言ってるでしょ! いや、そうじゃのうて、今日は桐山がきんさーから、汚すなって言いよったろうが。こがん汚して、きさんら、なんばしよっとか!」
メイド服とウサギ耳のカチューシャ姿の白兎が、九州弁でまくし立てている姿は、とても奇妙で面白かった。
「キャラ立ってるな。白猫さん」
「白兎でしょ。ノブは、物覚え悪いな」
「わざとだよ。他の二人も面白い感じだな」
「知ってた。ネタを振られたと思ったから、ツッコミを入れたんだ。二人とも染めているわけじゃなさそうだけど、日本人で薄青髪に金髪とはね。多分、腐術を使って髪の質を変えたんだ」
「超常的な力を、俗なことに使ったもんだな」
「個人の自由さ。しかし、ここは腐気でむせ返るね」
信親と薫が会話を楽しんでいると、晶が気合と共にテーブルを蹴り上げた。
「フンッ!」
紙が宙を舞い、インクが床に零れ落ち、ペン先が散らばった。
「酷い。胸が大きいと、態度も大きくなるのね」
「人としての器は、極小やねんな! 適わんわー!」
陰気な青狐は静かに、小汚い黄猿は騒がしく嫌味を言った。
「黙りなさい。貴方達は、BL漫画の所持、生産、販売は、腐女子排除法で禁止されている行為です。本来なら逮捕されているところなんですよ。我々警察から目こぼしを受け続けたければ、勤めを果たしなさい。ホラ、出すもの出しなさい」
「……ヤクザみたいな刑事ね」
「もう、刑事みたいなヤクザでいいやろ。堅気のワシらには、どうにもならんで」
文句を言う青狐と黄猿だが、晶のチンピラのようなメンチに恐れをなしていた。
二人の腐女子は、対応を白兎に丸投げにかかる。
「会長、後はお願い。わたしたちは、原稿がある」
「そや、この原稿を締め切りまでに上げないと、今月のシノギは、ゼロなんや。上納金も払えへん」
「白兎か、せめて店長って言ってよ」
「ハイハイ、テンチョーさん。てか、呼び名なんて、どうでもいいやろ。資金がないと、うちらの組も、解散する羽目になるで。原稿上げんと、上納金の支払いノルマを達成できへん。そうなったら、シマ取られて追い出されるんや」
「それを言われると、キツかなぁ。伝統ある池袋腐心会も、落ちくさったもんたい」
重いため息を吐く白兎に、晶は容赦がない。
「貴方達の懐具合は、わたしには関係ありません。さっさと、ファイルとアレを寄こしなさい」
「わかってますよぅ。どうぞ、どうぞ」
口調を戻した白兎は、ファイルとUSBメモリ、A4サイズの分厚い封筒を、晶に差し出した。
ファイルを受け取った晶は、素早くめくって中身を確認にかかる。
「あらら、随分と、大変なことになっていますね。これでは、どの組織も大変よねー」
「人ごとみたいに言わんといてください。警察さんには、大分、締め付けられましたからねぇ。大手の組でも、同人誌販売のシノギは、難しくなってます。例外は、貴腐人様方だけですわ」
嬉しそうな晶の声に、顔を伏せた白兎が、ため息とともに愚痴を吐いた。
気になった信親は、ファイルを覗き見る。
「腐同会、超腐連盟、腐教会、なんだこれ?」
「池袋界隈に本拠を置いて活動する様々な暴力的腐女子組織の一覧だね。これは構成員、特に腐浄士と腐大師の数や財務状況、武装の強度や戦闘技能の熟練度を記してあるみたいだ」
「薫君、信親君、勝手に見ないでくれる? 一応、これ機密情報なの」
「でも、ボクらには、見せてくれるつもりだったでしょ。元々、ボクらに協力を求めるつもりなわけだしさ。当然、情報を開示するよね。特に、この辺りを」
晶から注意されるが、薫は悪びれた様子はなかった。
どころか自信満々に、ファイル内のある一点を指し示すと、不敵に笑って見せた。
薫の白く細い指が示す箇所を覗き込む。全日本腐女子連絡会・腐動明王派と、同・腐女神派という組織名の間に、掛け算のマークが付けられていた。
「こりゃなんだ? あれか、受けと攻めってやつか?」
「腐動明王派が攻めようとしていて、腐女神派は受けてたってるから、ある意味近いね。でもちょっと違う。この二つの腐女子団体が抗争状態に突入するか、これからするって意味だ」
池袋暴動をきっかけにして施行された腐女子排除法は、数ある腐女子の団体を、壊滅状態に追い込んでいた。
新設された腐女子対策課と、応援に動員された機動隊やSATによる締め付けと攻撃は厳しく、腐女子の団体は、池袋以外での表だった同人活動は行えなくなっていた。
資金源であった同人誌即売会や同人ショップ、同人誌ダウンロード販売サイトから締め出しを食らったのだ。
同人誌やグッズの頒布を主な収入源にしていた多くの腐女子団体は、資金難に陥った。
おまけに、当時流行っていたスポーツ漫画のキャラに対する受け攻め論争から発展した団体間抗争が頻発し、同盟関係にある団体を巻き込んだ大規模な潰し合いが発生していた。
代表や幹部の死傷や逮捕が相次ぎ、腐女子団体は、最盛期の三分一にまで数を減らしていた。
「抗争? まだそんな体力のある腐女子団体が残っていたのか。ニュースや新聞じゃ、ほとんどの団体や組織は、壊滅したって聞いたぞ。ニュースサイトのメルマガにだって書いてあった」
「半分正しいですけどぉ、半分は間違いですねぇ」
白兎が、可愛らしい顔をしかめて、薫から解説を勝手に引き継いだ。
「団体はぁ、幹部の死傷により減りましたけど、腐兵士や腐術師とか下位の構成員や、同人誌を買う腐女子は、あまり減っていませんからねぇ。兵隊も資金も、あるところには、あるんですよぅ。池袋周辺には、腐気が多いんでぇ、地下に潜った人が多いみたいですぅ。白兎たちみたいにぃ、高いところに逃げた人もいるんですけどねー」
「砂糖みたいに甘い声と、無駄に可愛い仕草だけど、兵隊とか地下に潜るとか、物騒なワードが多いな」
「そんなぁ! 可愛いなんて、ナンパですかぁ? 困りますぅ。わたしには、心に決めた人がいるんですぅ。ホラ」
顔を赤くした白兎が、胸元もとから写真を取り出し、信親に押し付けてきた。
テニスウェアを着て、顎が不自然に長いイケメンが、アニメ調で描かれていた。
週刊漫画をあまり読まない信親は、詳しくは知らない。だが、人気のテニス漫画に登場する敵役で、人気ナンバーワンのキャラらしいとは知っていた。
「これ、漫画のキャラじゃん」
「声優さんもいますし、アニメで動いているので、ホントにいるのですぅ~」
「ふ~ん? あっそう。で、こいつは、あれか攻めキャラって奴か。なんかSっぽいし。女の子って、こういうキャラ好きだよな……え、なに?」
信親が言い終わる前に、空気が凍る音が聞こえた。
周囲を見ると、薫は無知を憐れむように、晶はこれから起こる不幸を嘆く預言者のような顔をしていた。
他の三人――白兎、青狐、黄猿――は、怒りと憎しみが混じった、凶暴な顔をしていた。
特に、白兎の放つ憎悪は凄まじかった。青狐と黄猿が煮えたぎるマグマとするなら、邪神に仕える暗黒騎士から流れ出る混沌の瘴気を連想させる、禍々しいものだった。
「キサン、今なんて言うとった?」
「え、女の子は、こういうキャラが好きだよなって」
「そこじゃなか! もっと前に、キサン、ふざけたこと言っとろーもん。聞いとったぞ」
ベニテングダケを食べた直後のバーサーカーさながらに、白兎は興奮していた。刺激しないように、信親はゆっくりと話し出す。
「えーと、攻めキャラっていったこと?」
「炎帝様は、受けだろうが!」
白兎は、凶暴な犬のように犬歯から涎を滴り落とし、唸っている。慎重に言葉を選ぼうとした信親だったが、自然に言葉が出てしまう。
「炎帝? ああ、このキャラね。受けとか攻めとか、どっちでも良くない?」
「キシャアアアッ!」
腐女子にとって、キャラクターの受け攻め判定は、迂闊に話せば死人が出ることも珍しくない重要事項だ。口に出してから気が付いた信親に、白兎が奇声を発しながら飛びかかってきた。
咄嗟に横に飛ぶと、晶に体当たりした形となる。
「信親君!」
「すいません」
「謝るのはいいから、離れなさい!」
「それが、胸の谷間に、顎から少しずつ顔が吸い込まれて、抜けないんだ! 畜生、俺を吸い込んで、どうしようっていうんだ!」
半分は、嘘ではなかった。晶の胸が形成する深い谷間に、信親の顔がはまり込んでいた。
恐るべき吸引力に加え、その弾力は、抜く努力を放棄させるには、充分なものだったのだ。
「ノブ、早く離れろ」
この体勢を、どう維持したものかと考えていると、薫が冷たい声と共に、引きはがした。
早速礼を言う。
「ありがとう薫。だが、空気は嫁」
「なに? からけ? ゴメン、漢字は苦手なんだ」
「二人とも、呑気に話している場合じゃないぞ」
晶の声に振り返ると、いつの間に取り出したのか、白兎は両手斧を振りかぶっていた。
小さく可愛らしい顔を殺意で歪めて、白兎は両手斧を振り下ろす。
「死ねぇ!」
「ノブ!」
「信親君!」
緊迫した声を出す薫と晶に、信親を助ける余裕はない。
「お二人の相手は」
「ウチらやで」
青狐が分銅鎖を薫の腕に巻き付け、黄猿はレイピアを晶に向けて突き出した。
受け攻めを間違える不届き者に対するボスの制裁を、邪魔させまいとしているようだ。
危機的な状況なはずだ。
しかし、信親に危機感はない。全て、見えていたからだ。
迫る斧の軌道も、薫の腕に巻き付いた分銅鎖の動きも、晶に向けられたレイピアの切っ先が見せる上下の変化も、完全に把握していた。
まるで、超スローのデュアルカメラで、室内を観察しているかのようだった。
神のような視点を得ただけでも驚きだが、加えて、時間の流れが異常に遅く感じられていた。
信親を除く五人が、スローモーションを極めた大道芸人のように、良く見えていた。
皆、体感時間で一秒に一ミリも動いていない。それでいて、信親は自由に体を動かせると、なぜだか確信していた。
試しに、白兎の両手斧に手を伸ばす。赤黒い錆の浮いた両手斧を片手で掴むと、あっさりと受け止められた。
途端、体感時間が戻る。
「ノブ、手、大丈夫?」
「なんか、大丈夫って言うか、むしろ余裕」
片手で、しかも素手で両手斧を受け止める信親を見る薫は、流麗な切れ長の目を、満月のように丸くしていた。
薫以上に驚き焦っているのは、白兎だ。額に汗を浮かべて、両手斧を奪い返そうとする。
「は、放さんかい」
「嫌だよ。お前は、ああ、白鰻だっけ? 知らないらしいから教えてやる。人は、斧で斬られると死ぬんだ。勉強になったか?」
「殺そうとしとるんよ!」
「尚更、放せないな。それは」
信親は、手首に力を籠めた。
すると、手首から先がカイロの使い始めのように熱くなり、細い針の束で滅茶苦茶に撫でられたような痛みが走る。同時に、周囲からおぞましくも強い力が流れ込んできた。
体に悪そうな力が信親に集まるにつれ、他の五人が体を揺らしはじめた。
白兎、青狐、黄猿は、床に膝をつき呻いていた。
薫は、重力に負けたかのように床を這っている。苦悶と共に見上げてくる薫の顔は、こんな時でも麗しく艶っぽかった。
美形は、どんなシチュエーションでも美形だなと、信親は感心する。だが、薫の体からは完全に力が抜けてしまっていた。
長い黒髪を蜘蛛の脚のように広げる薫の姿は、痛々しくもあった。
死屍累々の惨状にあって、辛うじて立っていられた者は、晶ただ一人だった。
「皆、どうした、ゴミ拾いか?」
場を支配する雰囲気の重さを察した信親は、つい下手な軽口を叩いてしまった。
幸い弱弱しい声だったので、誰の耳にも届かなかった。
「信親君、受けの印が暴走しかかっているのです。早く力を抑えなさい! 腐気を無制限に吸い取っているのです。このままでは、君も皆も死んでしまう」
「受けの印? ああ、腐印ってやつか。抑えるって、どうすんの? って、熱っ! 痛っ!」
呑気に返事をする信親だったが、流れ込む力が強くなるにつれ、手首の熱さと痛みは強まり、範囲は広がっていった。
いつの間にか、右腕を見全体が〝受けの印〟と同じ赤黒く変色していた。
指の先、肘、肩まで熱と痛みが、赤黒い呪いとなって、体を登ってきていた。
このまま、熱と痛みが頭までやってきたら、どうなるのだろうか? 脳がこの熱と痛みに耐えられるとは、思えなかった。
信親は、初めて恐怖と危機感を覚えた。
声にならない悲鳴が、口の端から漏れる。
「ノブ、ビビってないで、制御だよ。受けの印を制御するんだ」
「だから制御って、どうやって抑えるんだよ。性欲は抑えられても、こいつはキツイぞ。紅茶を二リットル一気飲みした後の尿意みたいだ」
「扉を、出入り口を、閉める感覚だ」
「尻の穴を、締めるみたいにか?」
「一々下ネタ挟まなくていいから! さっさと制御してくれるかな。呼吸を意識して、イメージの中で扉を閉めるんだ! 早く!」
キレ気味というか、薫は殺意すら漲らせた目で、信親を睨みつけてきた。
問題を解決しても、違う問題を対処する必要に迫られそうだ。
素直に従ってやろう。すでに、痛みと熱は、顔面の三分の一まで着ている。
「わかった。腹壊した時の肛門括約筋みたいに、締めてやる」
信親は、浅い呼吸で心を落ち着けてから目をつむった。
脳内に、開かれた重々しい金属製の扉が浮かび上がった。
熱と痛みに集中力を削がれる中、少しずつイメージの扉を閉めていく。早く早くと焦るが、金属製の扉は、亀よりも少しだけスピーディーにしか、動いてくれなかった。
それでも半分以上、イメージの扉が閉まっていく。
「ノブ、急いだほうがいい。顔が半分以上、赤黒くなってるぞ」
「知ってるよ。死ぬほど熱くて痛む範囲が、ジワジワ広がってやがる。痒みもだ。クソッ!」
新たに痒みが加わったところで、薫に対応した拍子に、集中が乱れた。
閉まりつつあった扉が、小石でも挟んだかのように、止まってしまった。
熱と痛みは、今や顔全体を覆い、左半身への浸食を開始していた。
信親は、床に両膝をつけていた。
集中しなければと思うほど、集中できなくなっていく。頭の中が「どうしたらいい?」でいっぱいになる前に、なんとかしなければ、熱と痛みと痒みに、全身を覆われてしまうだろう。
危機的な状況ほど冷静さが必要なる。わかっているが、冷静さは焦りに代わり、思考力は零れ落ちていく。頭の中で「もう一度、十秒程度でいいから時間をかけて集中するべき」という声は、一瞬で「どうしよう?」に入れ替わってしまった。
もう駄目だ。信親が諦めに身を委ねる寸前になって、酷く、柔らかいモノに顔が埋められた。
途端、熱と痛みで乱れていた思考が落ち着き、回復する。諦めが追い払われ、匂いと感触で、晶の胸に顔を突っ込んでいると理解した。
信親を胸に抱きかかえたまま、晶が静かな声で集中を促す。
「信親君、余計なことを考えないで。扉を閉めるイメージを、もう一度頭の中で作って。ゆっくりでいいの、まだ時間はあるから」
晶の優しい声と匂い、感触で、信親の体から熱と痛みが和らぐ。脳裏に扉が生まれ、油を注いだばかりのように、スムーズな動きで閉まった。
と、嘘のように熱も痛みも引いていった。
皆、しばし呆然としていたが、いち早く立ち直った薫が、胸に抱かれたまま動かない信親の肩を叩く。
「やれやれ、死にかけたよ。もう大丈夫だろう? ノブ、脂肪の塊から離れたらどうかな」
「動けない。たすけて」
信親は、晶の胸の隙間から、か細い声で助けを求めた。
筋肉が、ほとんど全て収縮しきった状態となっていて、まともに動かせなくなっていた。
受けの印が力を発揮していた時とはまた違う、慣れた痛み――筋肉痛――が信親の全身を貫いていたからだ
「ちょっと、信親君、喋らないでくれる。あと、離れて」
「いや、ホント、動けない。引き離して」
「じゃあ、ノブが自分でも動きなよ。見え透いた嘘を言っていないでさ。まったく、大きな脂肪の塊がそんなに好きだって言うなら、養豚場にでも行って、ラードの山にダイブでもすればいいんだよ」
「その言い草は、わたしに失礼だとは思いわないの? 晶君」
本当に動けないでいるわけだが、薫も晶も信じてくれなかった。
全身を硬直させたまま、二人が信じてくれる瞬間を、信親は長く待つ羽目となった。
腐気を吸い取られすぎた白兎ら三人も、信親同様、動けずにいて、助けを得るのに時間がかかっていた。
もっとも、襲われた被害者であり、意識を失う寸前の信親としては、加害者たちの健康は、どうでもいい些事だった。
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