第9話 誤魔化しのうまい男

「ウチは、この世全てのBLを守護する一族が一人、腐導会若頭補佐の沢渡真澄と、申しますぅ。それにしても、お二人とも、お察しがよろしいおすなぁ」

 真澄と名乗った女は、怪しい京風の発音で挨拶をしてきた。

顔は端正な造りだが、肌は病的に白い。顔に張り付けた細い目を、より細めて笑う真澄は、昔話の狐のように胡散臭かった。。

「察し良いも悪いもないね。腐女子臭いからすぐに分かったよ」

 これから色々と、教えてもらったり案内してもらったりする身でありながら、信親は敢えて礼を逸した言葉を使った。

 真澄は、一瞬額に深い皺を作ると、固まった笑顔のまま首を傾げた。

「臭い?」

「あれだけ甘ったるきゃ、すぐにわかるよ。おばさんの香水より存在感があった」

 真澄の笑顔がさらに固まった。

 薫が慌てて止めに入ってくる。

「おいノブ。失礼だろ」

「じゃあ、臭くなかった?」

「臭かった」

「だろ?」

「まあね。いや、確かに甘ったるくって臭かったけど、ボクは甘党だから大丈夫なんだ」

 フォローになっていない薫の言い訳を聞いて、真澄の硬直時間が伸びた。

「せい!」

「ちょ! なにしはりますのん?」

 笑顔のまま固まっていた真澄の両肩を、信親は平手で叩いた。

「案内よろしく」

「え、ええ。はい。わかりました。こちらへ、どう、ぞ?」

 真澄は、首を左右に振りながら不思議そうな顔をして、屋上を歩く。巨大な室外機の間を通り抜け、小さなプレハブ小屋に入った。

 プレハブ小屋には、小さな机と椅子、懐中電灯やヘルメットの入った棚があるだけだった。

 こんなところに何があるのか。信親が尋ねる前に、真澄は棚を横から押し、スライドさせた。

「いい趣味してるな」

「映画みたいだね」

 信親と薫は、顔を見合わせて笑った。

 唐突な事態のせいか、笑みは自然に漏れていた。

 真澄は、白すぎる顔に、また胡散臭い笑みを浮かべた。

「さ、いきましょか」

 行きつけのレストランに誘うかのような様子で、真澄は信親たちを誘った。

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