第22話イメージ
晶と虎子が、小声で叫ぶ。
「ちょ、信親君」
「バカ野郎」
腐浄士が、冴島マリモの目が、信親を標的として捉えたとわかった。
「貴様、見た顔だな。そうか、総帥の子息で、仏生寺薫のお気に入りだな。おい」
マリモの指示を受け、腐戦士二人が信親たちへ向かってきた。
一応女で、顔立ちもそこそこ整っているが、目が剣呑だったし、刀や片手斧を持っているので、恐ろしさが先に立った。
相手は腐女子だ。
ここで、受けの印を作動させれば、腐気を奪い取って、昏倒させることは容易い。しかし、周りに腐女子が多すぎるので、受けの印を作動させると、腐気を集めすぎて、信親のキャパシティーを超えてしまう可能性があった。
受けの印を制御できればいいが、できなければ、信親が昏倒しかねない。晶と虎子が、背負ったM1短機を手繰り寄せる動作を背中に感じながら、自分の成長に賭けてみようか逡巡した。
「戦場で尻込みか」
「愚かな」
信親の煮え切らない態度を察した腐戦士が、刀と片手斧を振り上げて襲い掛かってくる。腐戦士は、腐浄士ほどではないが、身体能力は一般人のアスリートより高い。一瞬で間合いを詰められてしまった。
迷っている暇はない。出力を絞って、受けの印を発動させる。
「そら、好みじゃないが、吸ってやるぞ」
「う」
「なに、が?」
スグに効果が現れた。
信親の体内に、腐気が流れ込み不快感を覚えた。と、同時に、二人の腐兵士は刀と片手斧をとり落とし、床に膝をついた。
信親の体は、風邪一歩手前のような体調になるが、数秒で収まった。
「どうよ?」
「おバカ、調子にのってないで、逃げるわよ」
「なんでさ。相手はあと一人だぜ。やっちまおう」
「お前の頭は間抜けか? すぐに、増援が来るぞ」
天狗になっているところを叱られた信親が、晶に抗議すると、後ろから虎子にどやされた。
脱出経路を探そうとした刹那、背筋を冷たいものが走った。
「逃がさん」
「アブね!」
マリモが振り下ろした刀を、間一髪でかわす。信親が怒られている僅かな間に、接近を許してしまっていたようだ。
腐気の乱れを感じ取れていなければ、真っ二つにされていただろう。
冷や汗をかく信親に、刀を上段に掲げたマリモが近づいてくる。
「どうやら、以前の貴様ではないようだな」
「そりゃそうだ。えーと、ちょっと間空いていただろ? 男子に三日会わざればK・A・T・U・M・O・K・Uして観よっていうだろ?」
「なぜ、一部の発音を変えたかは、敢えて聞くまい。これから死ぬ者の魂胆など、どうでもいい話だ」
マリモから発せられる殺気が、まるで質量をもったかのように、信親を襲った。
後退りしそうになるが、晶の背にぶつかって阻止される。斜め後ろには虎子がいるし、周囲には、状況を見守る腐女子が鈴なりとなり、薄い本の乗った机が数え切れぬほど並んでいた。
この混雑具合では、逃げてもすぐに追いつかれてしまう。状況を認識するや、逃げ腰になりかけていた信親は、ごく自然に戦闘モードへ移行できた。
とはいえ、素手では戦えないし、腐女子ならともかくスタンガンが腐浄士に利くとも思えない。どうしよう。いや、武器がないなら作り出せばいいんだ。
俄然やる気が出た信親は、調子に乗って、他の二人に指示を出す。
「晶さん。巡査殿。冴島マリモを速攻で戦闘不能にしてから逃げるぞ」
「それしかないわね」
「命令するな」
晶は素直に、虎子は不満そうにしながらM1短機を構えた。
信親は、マリモとの間合いを図り、受けの印を緩く発動させた。
体中に、少しずつ熱と痛みが広がる。同時に、筋肉が肥大し、力が充満していった。
マリモも気合充分。振り上げられた刀の切っ先は鋭く、信親を睨む目は、更に鋭い。マリモからだけ腐気を吸い取れれば楽なのだが、受けの印をそこまで精妙に操作できない以上、諦めるしかなかった。
代わりに、脳内で武器をイメージする。一瞬の間に、様々な武器が駆け巡った。
刀・剣・槍・薙刀・槌・弓等々。しかし、どれもしっくりこない。目の前にやる気満々のマリモがいるのに、中々イメージが固まらなかった。
そうこうしている間に、マリモが床を蹴って跳躍した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます