第15話みんな仲良く
「流石は、あの北畠静流の息子さんだ。キモ座ってるっすね。キモイくらいっす」
「全くだね。北畠智花のお兄さんだけのことはある。最高のキモさだ」
氷のような声は、二人の女性から発せられていた。
一人は可愛らしい声をした、百四十センチにも満たない、声よりもさらに可愛らしい外見をしていた。
もう一人は、棘のある気取った声を、厳しい視線と共に、信親へぶつけてきた。
可愛らしいほうが元交通課の植島佳奈美、気取ったほうが、元機動隊の真下虎子だ。二人は、腐女子対策課所属の警察官で、晶と同様M1短機と拳銃で武装していた。
真澄から――正確には真澄の上役である泰山腐君から――静流と聖典の情報もたらされ、池袋地下にある神殿へ突入する作戦が建てられていた。
警察と協力関係――それも公的に――にある唯一の腐女子団体、泰山腐君率いる腐導会との合同作戦だった。
敵意を隠そうとしない二人は、信親と晶と同じ遊撃班所属だ。
腐気への耐性がある警官であり、腐女子に対する敵意が強いことを評価されて、作戦に動員されたらしかった。
攻撃的な言葉と態度が癇に障ったので、ちょっとくらい言い返してやりたいところだったが、信親は我慢した。
腐気に対する耐性がある者は、滅多にいない。その上警察官で、晶の部下だ。
悪態をついて諍いを起こせば、晶に嫌われてしまうし、これから突入する地下では、二人と生死栄辱を共にする関係だ。
関係を良好に保つ必要があった。
だから信親は、嫌味を言われても悪口を返さずに微笑んで見せる。鏡のように悪意を悪意で返すなど、愚かしいことだ。
「ウワッ! なんかニヤニヤ笑ってるっすよ」
「いっそう、キモくなったね。ははあ、読めたぞ。あの家族が腐女子の腐男子候補は、ストレスで本官らを殺すつもりだ。陰湿だね」
「梅雨みたいな男っすね。絶対モテないっすよ」
悪口に悪口で返すのは、愚か者のすることだ。そこで信親は、舌を出しつつ両手で中指も立てて見せてやった。
途端、二人の警官は、いきり立つ。
「こいつ、マジクソっすわ。叩きのめして、薄いクソにチェンジさせてやるっす」
「そうだね。彼の良い度胸に応えてあげよう。ここじゃ狭いから、表に出ようじゃないか。自分の足で、出れるかな? 体が震えて無理なら手伝うよ。介護の経験はないから多少痛いと思うけど、我慢しなよ。男の悲鳴は汚くて適わないからね」
嫌味に嫌味で返さずに、ジェスチャーで勘弁してやったのに、逆恨みを食う羽目になった。
黙ってサンドバッグになる愚を、平和的とも紳士的とも信親は見なさない。念のため持ってきたスタンガン取り出そうと、懐に手を入れる。重い感触が手に伝わり、信親を勇気づけた。
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