第27話だが断る

 突然かつ唐突な質問に戸惑いつつも信親は答えてやる。

「俺はまだ、大学三年生ですよ。就職活動は、卒業してからが本番です」

「親御さんと妹さんがしでかしたことの大きさは、信親君も骨身に染みているはずよ。つまり、この戦いから生還できたとして、その後はどうするの? まともなところには、就職できないって、理解しているわよね?」

 甘い体臭と熱い吐息で信親を包みながら、晶は、淡々と都合の悪い事実を突きつけてきた。

 見て見ぬふりをしているが、実際、就職は難しいだろう。親や親族から犯罪者を出した時点で、大手や公務員はまず無理だ。

 規模の大きな組織ほど不祥事やトラブルを嫌う。身辺調査くらいはするはずだ。

 他に入れそうなところいえば、ブラック企業や業界自体がブラックな職種しかないだろう。そもそも、大して偏差値の高いわけでもない大学に入れたことでさえ幸運だったのだ。

 晶の話す内容と匂いの魅力に、意識に霞がかかる中、飛びつきたい欲求を、必死に抑える。

「晶さん、確かに就職は厳しいでしょうね。でも、それをいうなら公安関係なんて、絶対ダメでしょ。一番、身辺調査キツイ職場じゃないですか」

「本来はね。でも、今は腐女子と戦える人材を警察は必要としているの。戦えるどころか腐気に耐えられるだけでも貴重よ。特に、腐女子でない人材は、少数派なの」

「でも、俺の母と妹は、もろに暴力的腐女子団体の人間ですよ」」

「本当に人手不足なのよ。今回の作戦だって、警察と自衛隊以外に、消防を含む公務員、更には民間人まで調査して、腐気耐性のある人間を集めたのよ。まさに、根こそぎ動員ね。それで全員合わせて、一万人強よ。年齢が低すぎたり高すぎたりする者を除外しないでその程度なの。最低限の戦闘を行えるものとなると、数百人しかいない。貴方は信用できるって、わたしが口を聞けば、なんとかなるはずよ。後は、信親君次第かな」

 要は、腐気に耐性のある者なら売り手市場だと、晶は言いたいらしかった。

 とはいえ人の弱みに付け込むよう言い草には、腹がたった。

 就職先は、正直いって、喉から千手観音を量産できる程度には、欲しい。それでも嫌なことは嫌と言える日本人として、ついカッとなって断った挙句に、反省しないことに決めた。

「つまり、推薦のために、活躍して実績を作れって、言いたいわけですね? でも、就職で釣ろうっていうのは、悪辣ですよ。ここは敵地で、腐動明王派の腐浄士や腐女神派の腐大師もゴロゴロいるところだ。戦いとなれば、死んだっておかしくないんですよ」

「酷い勧誘方法だってことは、分かっているわ。実際、貴方は民間人だもの。わたしは刑事、普通なら頼るのではく頼りにされる側だわ。でも、戦力が足りない以上、たとえ民間人でも、腐気に耐性があって、腐印も腐気を操れる信親君の力が必要なの。力を貸してちょうだい」

「断る」

 縋りつくような目をしながら頼み込んできた晶に、即座にNOを叩きつけた。

お願いを断られた晶が、あからさまに動揺する。

「え、なんで? え、即答?」

「利益を前面に出して、駄目ならへりくだるって態度が、気に入らないからですよ。こっちの感情を揺さぶって、言うことをきかせようって魂胆でしょう? 見え見えです。下手な手品をドヤ顔で披露されている気分ですね。お次は、ついてこないと逮捕だ、ってところですか?」

 晶は顔を赤くしたり青くしたり、口を無駄に開け閉めしたりした。

 図星だったらしい。所詮はまだ学生と、侮られていたようだ。

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