第16話突入

「ちょっと、三人ともいい加減にしなさい。後五分で突入なのよ」

信親たち三人が車外にでようとすると、晶が叱りつけてきた。

チャンスだ。晶を利用して、警官二人を煽りにかかる。

「はーい。俺はいい子な常識人なので、晶さんの言う通りにしまーす。社会不適合者とは違うんで。大人しくしてまーす」

「身内が特A級犯罪者のセーガクが、何言ってんすか?」

「晶さんの制止をいいことに、逃げただけだのくせして偉そうにしないでほしいな」

 予想通りの反応に、内心と表情でニンマリすると、信親はカウンターをしかける。

「俺は、実際的な行動をとっただけさ。今は、作戦前なんだぜ。争ってる場合じゃないことは明らかじゃないか。母親がテロ組織のトップで、妹がその幹部の俺にわかることが、お前らにはわからないのか? だとしたら、犯罪者の家族である俺より、状況把握能力がないってことだよな? そんな奴らが警察官だって? おいおい、税金ドロボーどころの騒ぎじゃないなあ。晶さん、一一〇番してください。こいつら逮捕しなきゃ」

「……マジぶっ殺すっす」

「同感。一緒の空気を吸うことを我慢してやっていたというのにね。恩を仇で返したんだ。覚悟は良いね?」

「だ、か、ら、いい加減にしなさい! 煽らない、挑発しない、乗らない。いいわね、もう!」

 晶が兄弟喧嘩を止めるお母さんのように、怒りつつため息をついた。

 甘ったれた話だが、晶が止めてくれるに違いないとタカをくくっていた信親は、素直に従う。

「はーい」

「わかったっすよ……背中には気を付けるっすよ」

「我慢はしましょう。でも、戦闘中の事故に関しては、どうしようもありませんよ。よろしいですよね、桐山警部」

 二人の警官は、晶に敬意を払いつつも、信親ほど素直に従う気になれないようだった。

「だ、そうですよ晶さん。掌握不十分じゃありませんか?」

「わたしを挑発するのは、止めてくれるかな? つーか、やめなさい。やめろ」

 余計な一言のせいで、晶を軽くキレさせてしまったようだ。

 作戦前で緊張している上、晶が率いているのは、たった四人の遊撃班だ。戦力不足の現状もある。これ以上晶の精神に負荷をかけるのは、得策ではないだろう。信親は、余計なことを言わないよう、注意を傾けた。

 しかし、晶の説教に関するやる気スイッチが入ってしまったようで、信親を据わった目で睨みつけてきた。

 鼻で大きく息をする晶を目の当たりにし、説教が来ると覚悟した次の瞬間――

「作戦開始一分前です」

 無情にも無線機から、女性オペレーターの機械的な声が響いた。

 史上初めてとなる、警察と腐女子の合同司令部からの指令だった。

「そろそろ、準備しましょうか。俺は武器もらってないんで、自腹で買ってきた特殊警棒でも振ってますね」

「……そうね」

 信親から当然の提案を受けて、晶は絞り出すような声を出した。

 晶の巨乳を横目で見つつ〝絞る〟という単語を組み合わせて、最悪のセクハラ・ワードを口にしそうになったが、なんとか堪えた。

「突入!」

 忍耐力を発揮した三十数秒後、晶の合図に応え、信親たちはバンを飛び出した。

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