声を消す
海鳴りに呼ばれて目蓋を上げた。脛まで浸って見通す海は真冬の黄昏で、遠くから漆黒の波間が這い寄ってくる。足は冷たさを感じていなかった。波音以外の何も聞こえなかった。海面から迫る虚無に締めあげられたように、喉が凍りついて声も出なかった。死んでいるような足はそれでもきっと動くはずだと知っているのに、沈黙が身体をも縛りあげ、木偶になった私はあっという間に上昇する海水に飲まれてしまう。どうしてか身体は浮かばない。上へ上へ嵩を増してゆく海面に取り残されて、沈みもしないのに深海の底にいるようだ。ここから外まで、声を出せたらどれほど遠いか知ることができるのだろうか。吐き出した泡が頭のすぐ上で音もなく消えた。
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