時を往く

ある時彼女は氷塊であり、意識を得た瞬間から見知らぬ誰かの青ざめた瞼を見ていた。ある時は川底の小石であり、頭上を行き交う川魚や照りつける太陽、人の子のはしゃぐ様などを何年も見続けた。またある時は大仰に保管される骨の中から、滑稽な格好で彼女を知ろうとする人間の姿を見た。目覚める度、そこには人なるものが存在したが、彼女はただ見つめるだけだった。人の言葉を持たず、発する器官も持つことがなく、また語りかけることができたとして、意味のある結果を招かぬだろうと推し量れたからである。幸いにして彼女はまた目覚める。人が追いつくまで何千年何万年と待ち続ける、そんな風情で、その気配は掻き消えた。

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