闇を飲む

淹れたての珈琲をぐるぐるとかき回す。砂糖もミルクも特に入れていないが、濃いめに注いだ真っ黒な液体に延々渦巻きを作っていると、そこに入口が出来ていくようで楽しい。何の入口かと問われれば、渦潮やストームのように望むものも望まぬものも吸い込んでしまう引力かもしれないし、風変わりな冒険の序章かもしれないし、考えるだけは自由な、「なにかの入口」である。ひとしきり夢想した後、カップを持ち上げてふぅと一息かけると立ちのぼった湯気で一瞬、純白の世界へ行ける。その間私には見えないが、漆黒の湖面には逆さまの国がある。霧に包まれた世界にいる私は、無慈悲な巨人のようにその逆さまの国を飲み干してしまえる。少しばかり、狂気じみた妄想だろうか?にっと口の端を持ち上げた酷薄な笑みが、静かになった珈琲の底へ沈んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る