友を想う

体内かと思うほど近くで囁き、夢で見るように遠くで手を振る。彼女にとって初めてのともだちはそんな存在だった。声だけが聴こえるというならいくらでも説明はつこうが、その姿は折に触れ彼女の前に現れたので、この世ならざるものなのだと言い切るわけにもいかず、同じく定義のよく判らなかった「ともだち」という言葉を便宜上結びつけていた。変声前の少年とも妙齢の女性とも聞こえる声のおかげで性別すら判らなかったともだちは、中学生になる頃にはやや年上の女性であることが判る距離まで近づいていた。高校を出る頃には手が届くほど距離は縮まっていたが、互いに触れようとすることはなかった。そして今となっては、彼女の前にともだちは現れない。幼い彼女を守っていたともだちはいつの間にか姿を消していた。

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