滅びを響かせる

予兆は突発的かつダイナミックに訪れた。若い男が口につけようとしたペットボトルがびりびりと震え、中の飲み物が少しずつ飛び跳ねて大波を作った。彼は即座に足元の感覚を確かめたが特に異変はない。その間にもペットボトルの中身は細い口から飛び出さんばかりに揺れている。あたりには怪訝な顔をしている人と何事もないように歩き去ってゆく人とが入り交じっている。異変に気づいている者同士が声をかけ合おうとした矢先、同時多発的にショーウィンドウのガラスが粉々になった。途端に悲鳴が重なる。その場に屈み込む人々、駆け出しては衝突をする人々、建物から飛び出してくる人々で、あっという間に往来は混乱の坩堝へ変貌した。地面は至って静かであり、上空から落ちてくるものもなく、どこからも異形の生命はやってこない。音も姿もなく侵蝕するウイルスに罹患したように、人々は自ら減っていった。後に記されるこの災害は、その元凶をもってして「共鳴」と呼ばれることとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る