息を吐く

張りつめた空気を裂くように白い息を細く吐いていく。頬や手の甲を刺す冷気のスクリーンに、紫煙で模様を描こうとして失敗した。もやもやと輪郭のない煙は空高く昇ることもなく頭の少し上でなんとなく霧散する。形も分からないまま澄んだ空気を汚して、いつの間にか消えている有害な靄は、眼球に張りついて世界に薄膜をかけるコンタクトレンズに似ている。薄灰色のレンズをかけたような外の世界と、冴え冴えとして奥底までよく見える内の世界がひっくり返ったみたいだ、と可笑しくなり、毒の煙を吸っては吐いた。冷たい靄とあたたかい煙が混じりあった、癖のある、少しだけ甘い香りに巻かれて歩く。

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