地を蹴る

いつまでも続くかのように思われた光の洪水が突然パチンと弾ける。一層の眩しさに思わず目を覆う。身体のすぐそばを突風のようなものが駆け抜けていき、反射的に膝が力んだ。堪え、ゆっくりと目を開けると光はおろか海もなく、輝く水面は幻と消えていた。代わりに広がる眼下の光景は、凍えた夜の海によく似ている。どれも同じに見える顔が群れているのは、真っ暗な海底から這い上がってきてこちらを飲み込まんとする水の恐ろしさを思い出させる。一瞬身体を駆け巡った震えは寒さだと押し殺して、ぼくは飛ぶように前へ踏み出した。楽園の砂浜などではない、冷たい黒光りする板を確かに踏みつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る