姿をみる

心音さえ聴こえてきそうな静寂のほとりに、華奢な人影が現れた。夢遊病者のような覚束無い足取りで白い泉に近づき、凍てつく水に手を差し入れる姿は神話の憐れな美少年を思わせる。雲間に潜んでいた三日月が勿体ぶりながら顔を覗かせると、白い花の群れがいっそう輝いて屈んでいる人の姿を顕にした。アシンメトリーに髪を伸ばし、目の縁を鮮やかに彩って薄い唇に真紅を引いた横顔。寒さで青ざめた額や頬はそれでなくとも血管が透ける白さで、作り物のような喉元がアンバランスに隆起していた。真白い服の裾が汚れるのも構わず膝をつき、泉に向かってぐっと身を乗り出す。柔らかな光で見る水面の彼は、彼自身でもよく似た男だ、と思うくらいにおぼろげだった。

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