第16話「朝日に映える嫁の肌」
そんな夜が毎晩続いて、今日も温かな存在感を感じて
そして、自分の胸にしがみつくようにして、
広がる
密着感が柔らかくて、でも少しおかしくて美星の口元には笑みが浮かんだ。
「絶対逃しません、って感じでもあるんだよなあ」
辰乃の尻の上あたりから、長い長い
それが今、美星の脚に
青みがかった
そっと、
つやつやとすべやかで、ひんやりと冷たい。
そして、辰乃の呼吸に合わせてかすかに動いている。
純粋に綺麗だと思った。
自分の花嫁は不思議な
「ん……ふあ? あ、あら? あ、美星さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「その、えっと……少し、くすぐったいです」
「ああ、悪い」
辰乃が目を覚ました。
見下ろす胸の上で、ゆっくりと
彼女の角は差し込む朝日で金色に輝いていた。まるで並び立つ黄金樹のようである。そして、そっと尻尾から放した手で頬に触れる。
しっとり温かくて、その手に手を重ねてくる辰乃の
未だに同居人同士で夫婦未満な二人だが、美星は妙に満足だった。
昨夜も
同時に、ふと疑問があって、それは日に日に強くなる。
自分のことも少し話したし、辰乃のことがもっと聞きたかった。
だが、その前にふと咳払いを一つ。
「辰乃、あのな」
「はい、美星さん」
「
「あ、はいっ! け、消しましょうか。あの、当たって痛いとかは」
「それは全然。けどな、辰乃。その……角に、引っかかってる」
言われて「ほへ?」と辰乃は目を丸くした。
自分では見上げても見えない角へと、彼女は手を伸ばす。
無数に枝分かれして広がる角の隅に、それは引っかかっていた。
――スケスケでレースがドドーンな、ぱんつ。
それは、昨夜こそはと気負う辰乃の、脱ぐために着てきた下着だ。
あの
あまりにも目の毒なピンク色のぱんつを、辰乃は手にして目の前に広げた。瞬間、まだ
「こっ、ここ、これは! はわわ、こんな凄いものを! わたしが!」
「ん、はいてた。んで、脱いだ。俺の前で」
「いっ、言わないでくださいっ! 恥ずかしいです、もうお
「そりゃ、どっかに嫁に行かれたら……困るわな。うん、それは、
「……そ、そうでした。その、美星さん、これは」
動揺のあまり辰乃は、赤面を広げたぱんつで隠す。
そして、スケスケのヒラヒラの奥から、じっと美星を見詰めてきた。
「あの、その、えと、でも、んと……お嫌い、ですか?」
「んー、難しいな。千鞠の
「……そういう風に見てらしたから、気付かないんですね」
「ん? まあ、なんだ……妹に、
「
「うん。……まあ、それより、だ。辰乃、少しはお前の話も聞きたいんだけど」
ひょいと辰乃の両手から、ぱんつを取り上げる。
自分でも広げてみて、うわあと美星も
この手のものはゲームやアニメといった
昔の偉い人は言いました。
月は遠くにあって手が届かないから、美しく綺麗なのだと。
今、美星はアポロ計画の宇宙飛行士になった気分だ。
「辰乃、お前な」
「は、はいっ!」
「辰乃には、もっと普通の下着でもいいと思う。そっちの方がいいな。こういうのもいいけど、普通でいいんだ。普通に、その、うん……か、かわいいからな」
「美星さん……わたし、嬉しいですっ!」
「ま、待て、ちょっと待て辰乃! 尻尾! 尻尾が締め付けて、なんかギリギリって!」
ギュッと辰乃が抱き付いてきた。
同時に、脚に
ようやく辰乃を落ち着かせて、話を促しながら……彼女の軽過ぎる重みを全身で感じていた。どうして女の子というイキモノは、細くて軽いのに安心感のある重さなんだろう。
そして、美星は自分の中に根付き始めた少女のことをもっと知りたかった。
「わたしの話、ですか?」
「そ。そもそも、何で俺の嫁に来たんだ? 神様に言われたから、かな。やっぱ」
「あ、いえ! わたし、神様にお願いしたんです。その……笑わないでくださいね、美星さん。わたし……その、行き遅れというか、行かず
おずおずと辰乃は話し始めた。
言うなれば、神々の
そして、辰乃にも
皆で神々を支えて、地球という星の全てを見守っていたという。
「昔はお友達も沢山いて、でもほら、ちょっと前にあったじゃないですか。世紀末が」
「ああ、えっと、何だっけ?」
「アンゴルモアの大王さんが来ちゃうので、皆でやっつけに行ったんです。外宇宙の辺境惑星にどうにか封印して、それで地球の平和が守れて……ご存知ですよね」
「いやいや。いやいやいやいや! ご存知じゃないから。しれっと地球救うなよ」
「それで今回も千年紀を無事に超えられたので……神々は世代交代しましょうか、って話になったんです。わたしの
「……あの
仕事の合間に、普段はやらぬ
そこはまさしく、
あの日、ファミレスで再会した神様に、気付けば勝手にLINEに登録されたのだ。
先日突然メールが来て、そのことを一方的に告げられた。
特に
「そ、それで、あの、仲間や後輩達はみんな」
「
「そういう子もいました。引退する神様と一緒になったり、龍同士でってのが多くて……で、気付けば世紀末の残務整理をしていたわたしは、一人になっちゃってて」
「なるほど。それで、俺でもいいかって感じに?」
「そ、それは違いますっ!」
胸の上をよじ登るようにして、グイと辰乃が顔を突き出してきた。
その目は
「わたし、お仕事のことしか考えてなくて。ずっとそうで……人間も、ちょっと
「怖い、ふむ」
「あの、いい人も沢山いました! 時々、お仕事だから国を焼いたりお姫様を神格化、つまり神様にしたりするんですけど。いい人と同じくらい、怖い人も多くて」
それから辰乃は切々と語った。
龍殺しの宝剣やら何やらと、龍を討伐する一族の
大きな戦争も沢山あったし、その
「わたし達の治める時代が終わったので、皆それぞれ自分の暮らしへ旅立っていきました。でも、わたしは……気付いたらお仕事以外、何もなくて」
「財宝集めは?」
「……見せびらかす訳じゃないです、けど……見せる仲間がいないと、つまんないです」
「だな。つまり、辰乃もワーカーホリックだった訳だ。ええと、1,500年だっけ」
「わーかーほりっく?」
つまり、仕事一筋の才女、できるオンナだったのだ。
どこかほんわかとして頼りないが、美星はシステムエンジニアを十年近くやってるから知っている。修羅場のデスマーチで最後にものをいうのは、健康とメンタリティだ。精神力が
そういう意味では、辰乃は一途でコツコツ頑張れるし、根気も熱意もある。
あっという間に現代の家電製品に順応したことは、美星でも驚くくらいだ。
「で……俺の嫁に来た、と」
「神様にお願いしたんです。あの……人間の方に嫁ぎたいので、
「人間、怖いだろ? 俺だってたまに怖くなるぞー? はは」
「怖いのは、知らないから。まだ、わからないことがあるから、です……だから、知りたかった、けど……今は、美星さんのことを、美星さんのことだけを……もっと、知りたいです」
辰乃はいつも真っ直ぐな目で、美星を見上げてくれる。
小さな花嫁は、いつも美星だけを見てくれてる気がした。
自然と違いの呼気が近付く中で、
だが、不意に目覚まし時計が鳴り出した。
時刻は五時半……辰乃はパチリと目を開くと、ジリリと鳴る目覚ましへ手を伸ばす。
「
「あ、いや、まあ……今日も一日頑張ろう? 的な? 今日も頼むな、辰乃」
「はいっ! 家のことはお任せくださいっ! ……でも、ちょっとだけ」
もそもそと起き上がる辰乃は、自分もと身を起こした美星を抱き寄せた。
その豊満な胸に、突然美星は顔を抱き締められた。
突然のことで、甘やかな匂いの中での、一瞬の包容。
まるで美星で何かをチャージしたかのように、素っ裸で冷たい朝に辰乃は立ち上がった。いそいそと着替えて、彼女はいつものエプロンを身につける。
「では、美星さんはもう少し休んでてくださいねっ!」
「あ、ああ……」
角と尻尾の生えた嫁は、元気にパタパタ台所へと行ってしまった。エアコンをつけつつ、気付けば美星は顔が熱くて……同じくらい熱してきた股間を見下ろす。
朝食の時間まで布団から出られない、布団以外では隠せない程度には、美星も健全な成人男子なのだった。
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