うちの嫁には生えてます!?

ながやん

第1話「プロローグ」

 ふと目を覚ましての、トイレ。

 立って小用を済ませる音が、深夜の静寂にやけに響く。

 荒谷美星アラヤアースは、いまだ酒精しゅせいくすぶる身体が重い。

 泥酔でいすいしての帰宅も、その後の就寝までのことも記憶が曖昧あいまいだ。

 何か大事なことを忘れているような、それ自体を覚えていないような。


「……なんだっけなあ。なんか、こぉ……大事なことがあったような気がする」


 ぽつりとこぼして、手を洗いトイレの明かりを消す。

 勝手知ったる我が家は、独身一人住まいの小さな借家だ。

 もそもそと美星は寝室へ戻り、たたみいた布団へ入る。

 だが、全く予想もしない弾力が触れてきた。


「ん……あ、えっと……ああ、よめか。嫁、だよなあ」


 そこには、となりの布団から忍び込んできた少女が寝ていた。

 美星がトイレに立った時に、精一杯の勇気を振り絞ったのだろう。夫婦のちぎりを求めて与え、二人で結ばれようとする健気けなげさが感じられた。

 寝入った様子だが、ひょっとしたら起きてるのかもしれない。

 美星は改めて、愛らしい新妻にいづまに触れた。

 そう、めとった妻なのだ。

 暗くて全然見えないが、柔らかさと温かさは本物だった。


「名前……そういえば知らないな。聞いてなかった」


 それはそれとして、まだまだ寒い二月のすえだ。

 酒の酔いも残る中での、けだるい眠気に今はあらがえない。それでも……わずかに身を震わせる少女を、自分の妻を抱き寄せる。

 ふわりといい匂いがして、身を強張こわばらせる気配が腕の中にあった。

 そのまま今夜は、このまま朝まで……それで勘弁してもらおうと優しく抱きしめた、その時。


「……ん? これは……?」


 手が、かたいモノに当たった。

 おどろいてはいるものの、上手くリアクションができない。

 何より、飛び起き絶叫する気力もない程に眠い。

 そして、立派なモノが生えてても嫁は嫁だ。

 そう……!?


「まぁ、いいか」


 つぶやいたひとごとが示す通り、美星は普段から無感動な日々を送っていた。何より、睡魔すいまささやきにあらがう力がもうない。

 ただ、おずおずと抱き返してくる少女のぬくもりが、その時は嫌ではなかった。

 そして、再び訪れる眠りの中で彼は思い出す。

 ついさっき我が家に来た、押しかけ女房にょうぼうとの衝撃的な出会いを。

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