第15話「生えてる嫁にも芽生えます!」
なんやかんやで、
美星としてはまあ、嫌ではない。
嫌ではないのだが、辰乃の頑張り過ぎが時々心苦しい。
「あ、あの……美星さん。その、明かりを」
「お、おう」
さてさて、今日はどうしたものかと、とりあえず美星は
辰乃は出会ったあの夜から、とても
家事はほぼ完璧だし、最初こそ家電製品に戸惑っていたが、今では
明かりの点いた暖かな我が家に帰るのは、とても嬉しいものだ。
「えと、美星さん……今夜こそ、わたしと
「それは、いいんだけど……辰乃? その格好は」
「
「……いいや、全然違うと思うぞ」
だが、その下着というのが、酷くいかがわしい。
小さな月明かりの差し込む寝室で、
白い肌を局所的に覆う、
ほんのり透けたレースが浮かべる
恥ずかしげに
「なあ、辰乃」
「は、はいぃ……や、やっぱり、変ですよね? これ、おかしいですよね!」
「うん。なんてーか、そうだなあ。とりあえず、角と尻尾、出していいぞ」
「あ、はい。では失礼して」
シュポン、と辰乃の頭に角が現れる。
相変わらず見事なもので、
尻尾も並んだ
布団の上に座った美星は、小さく鼻から溜息を
「まずな、辰乃。えっと……お前、そんなに頑張らなくていいからな?」
「えっ!? で、でも、わたしは美星さんの嫁ですから! 頑張らなくて、いいというのは……」
「出会ってまだ数日だろ? その間、色んなこともあったし……そう急ぐなよ」
「は、はい……ごめんなさい」
「や、怒ってないぞ? 怒ってないから……ちょっと、こっち来なさい」
シュンとしてしまった辰乃が、おずおずと
膝を折って座るや、彼女は小さな身をさらに小さくたたむように下を向くばかり。そんな辰乃を見下ろして、やれやれと美星はそっと両手を伸ばした。
そうして上を、自分を向かせて覗き込んだ。
「あ、あの、美星さん!?」
「なあ、辰乃……千鞠のことな、許してやってくれな? あいつも、その……本当は俺が義理の兄貴になる
「は、はい。……あ! だからですね! それで千鞠さん、失恋だって」
「ん? それは? いや、それよりな……幻滅したのも当然で、そうならないように、俺はこぉ……趣味を隠してた。好きなことをな、好きな人達のためにやめてみたんだ」
「……美星さん」
結果的に言うと、失敗だった。
美星も十年近く社会人をやってきて、自分なりにわかったこと、
何かのために新たに取得する、前進する、手を伸ばす。
これはいい。
ただ、何のためであれ欲求、ないしそれに近いものを抑えるのは一苦労だ。
我慢するということ自体が苦しければ、それは無理をしているということなのだ。
「あのな、辰乃。お前にはまあ、全部見せるからさ。俺は何も隠さないし、辰乃のことも全部……まあ、受け止めるといったら格好付け過ぎだけど。辰乃の好きにしてもらって、そういう辰乃を好きでいたいというか」
「美星さんっ!」
「うん? だからこう、お互いもっと
「は、はいっ! わたしも、その、ちょっと自信がなくて。だから、性急過ぎたかもしれません。ただ、やっぱり美星さんはわたしの旦那様なので、夜は
辰乃が小さくくしゃみをした。
まだまだ寒い二月の末だ。
慌てて美星はぱっと手を離す。
「とりあえず、寝るか。辰乃、俺も色々あってこう、なんだ。あんまし無感動で動じない人間だから、不安だろうけど」
「そ、そんなことないです! 美星さんは、くしゅん!」
「今夜も冷えるな……ん?」
おずおずと辰乃は、美星に抱きついてきた。
パジャマの上からでも、彼女の
「美星、さん……今夜も、その……温め、合っても、いいですか?」
「ん、まあ……馬鹿だな、辰乃。そういうのな、いちいち聞かなくてもいいんだ」
「は、はい……えっと、では」
美星もアニメやゲームに精通した、いっぱしのオタクだったからわかる。これぞまさしく、世のオタクが渇望してならないギャルゲー的な……それを通り越してエロゲー的なサムシングである。
誰もが望んで手に入れられぬ全てが、辰乃という
ただし、恥ずかしげに目を
いつもより少し、互いの味覚を感じ合う場所が近くで何度も触れ合った。
「ふあ……えと、美星さん……今夜でも、いいですか? あの、焦るわけでは、ないんですが」
「ん、まあ……じゃあ、するか」
「は、はいっ!」
パジャマを脱ぎつつ、何だか妙な感じだが……そういえばと思い出す。
こういう時にムードも何もあったもんじゃない女を知っている。
あけすけなくて何でも直球ストレート、常に豪快に笑ってる人だった。
恋人、だった。
辰乃とは何から何まで
そのことを思い出す自分を、美星は嫌な奴だと感じた。
目の前でおずおずと裸になった辰乃に、少しだけ申し訳なかった。
が、成人男性として自分の肉体はしっかりと、健全な健康体を主張してくる。
「で、では、あの……美星さん、どうぞ」
「ああ、じゃあ……ちょっとお邪魔して」
「これで……夫婦、ですね。わたし、嬉し――!?」
次の瞬間だった。
悲鳴と共に、小さな両手が首にしがみついてきた。
思わず美星は、ピタリと固まってしまった。
「……痛かったか? 辰乃」
「い、いえっ! 平気です! これしきのことで……ど、どうぞ! 美星さん、続けてくださいっ!」
「じゃ、じゃあ」
「あ、っっっっっ! ぐ、んぎぎぎ……ま、待ってください美星さん! あ、いえ、ごめんなさい! 続けてくださ――んんんっ!」
「……辰乃、ちょっとタイム。いいか?」
涙目で小さく辰乃は
互いの準備が万端なように見えたし、手と指で触れた辰乃自身もしっとりとそれを肯定してくる。
だが、彼女の痛がり方は
「ど、どうしてでしょう……こんなに痛いなんて! ……ひょっとして、人間はみんなこうなのですか!?」
「いや、個人差があると思うが」
「
「えっと、ちょっと待とう。落ち着こう、辰乃」
そうとう痛いらしい。
そして、実質二人は交わり結ばれたとは言えない状態で立ち止まっていた。
互いの粘膜が触れ合って、その奥へと進もうとした瞬間の絶叫だったのだ。
辰乃は歯を食いしばるようにして、広げた両手がシーツをギュムと握っている。
よほどのことなのか、彼女の尻尾は力むあまり美星の足首にガッチリ巻き付いていた。
「……ちょっと、辰乃」
「は、はいっ! ど、どうぞ!」
「いや、何ていうか……そういうのな、人間でもあるから。痛いの、嫌じゃない?」
「大丈夫です! 平気です!」
「そういうもんじゃないだろうし……辰乃、初めてだろう。こういうのさ、最初は痛いとかいうし、初めてじゃなくても痛い時があんの。だから、辰乃が変な訳じゃなくて」
「……す、すみません。あの、美星さん……なんてお
しょぼんと辰乃は顔を反らしてしまった。
その頬に、一筋の光が走る。
彼女なりに美星の妻として頑張ってるつもりで、それは痛いほどにわかる。だからこそ、本当に痛い思いはしてほしくないというのが美星の思うところであった。
それに、彼女の健気さ、一途さが自分には少し痛い。
胸の奥の生傷に、良薬の
「よし、辰乃。こうしよう。とりあえずな、毎晩一緒に寝るんだから……いけそうな時だけチャレンジしてみて、駄目だったら駄目だったで、まあ気にせずそのまま寝る。いいか?」
「は、はい……でも、美星さんがそれだと」
「ん? ああ」
「えっと、あの! 旦那様が収まりがつかないのも、妻として、嫁として!」
「あ、ちょっと、待ちなさいよ辰乃。ってか、そう強く
結局、この夜は双方痛み分けとなった。
辰乃が痛いのも困るが、その痛みが自分にも伝わったかのようで……美星も今夜は再起不能になったのである。互いのデリケートな部分に対しては、どうにも無知と未熟があって、辰乃の場合はそれが極端なのだ。
結局、その夜も抱き合うだけでそのまま寝てしまった。
今まで買い集めたどんな抱きまくらよりも、辰乃のぬくもりは心地よくて、やわらかで……それだけでも満足だが、物理的に愛し合えないのは辰乃が困るかもしれない。そして、精神的には恋だ愛だというのをまだこなしていないことに気付く。
とりあえず、その辺も今後は話し合い、
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