ジャック VS ダイタラボッチ

 ジャックが会場に立つと、目の前に現れたのは例の巨人だった。なるほどやはり、勝てる気がしない。今まで人間より大きい者と戦ったことなど、全くないのだから。


 ジャックが不安混じりに周りを見ると、ふと奇抜な観客を見つける。着ぐるみだった。

「あ、あの……なんだ。お菓子のキャラクターみたいな奴。」

 ジャックは声を張り上げる。

「おぉーい!!あー、あの、昨日の飴……、美味かったぞ!」

「うそつけぇぇぇぇぇ!!!」



 ──試合のReady...コングが鳴り響くfight



 ダイダラボッチは全速力でこちらに向かってきた。ジャックも剣を出して構える。今回は自分の物とダリオの物、2本を使う。

「陛下の剣、重いな……。」


 向かってきたダイダラボッチを斬りつけながら左に避ける。すると、傷口は瞬く間に塞がってしまった。

(俺と同じ類か。いや、一時的な切断はありなようだな。)

 ジャックはその後も何度か斬りつけるが、一向にダメージを与えられない。


 ジャックは1度身を引いて、相手の出方をうかがうことにした。というのもあるが、相手から放たれる悪臭に耐えきれなくなったのが本心だ。ダイダラボッチはジャックに向かって駆け出し、拳を振り下ろす。凄まじい威力だ。昨日の女──名前はなんだったか──もかなりのものだったが、やはりこちらは外見に見合った力強さだった。


 ジャックは地面を軽く撫でる。そして振り下ろされたダイダラボッチの拳をかわす。すると、ジャックのいた地面の砂が舞い上がり、ダイダラボッチの目を潰した。その隙にジャックは連続して斬りつけ、弱点を探そうと試みる。


 その時だった──!


 突如として、ダイダラボッチの姿が影形なく消え失せたのである。ジャックは困惑するが、すぐに理由が分かった。

(くっ……!?奴め、身体の大きさまで変えられるのか?)

 ダイダラボッチは、身体をジャックが気づかない程度に縮め、彼の頭の中に侵入したのだ。ジャックは頭を押さえるが、ふと、観客席で異様な喜びを見せる着ぐるみの姿を見る。

「まさか……。」


 ジャックはダリオの剣を真上に放り投げると、ミスティ・カジェルディをかけ、勢いよく振り下ろした。その先は紛れもなく、ジャックの脳天だ!



 ズバアアァァァァッ!!!



 ジャックは頭から真っ二つになった。無論、アンデッドなので剣が通過し終えた所から、どんどん繋がっていき、傷など一瞬もつかないが。


(クソッ!かわしたか、小賢しい奴め!!)

 ジャックは自分のロングソードも宙に放ると、その剣で喉を、ダリオの剣で後頭部を貫通させた。


 グシャァッ!!


 後ろからの剣に、小さなダイダラボッチを確認する。観客席には動揺する着ぐるみの姿。そして、剣で刺されたままのダイダラボッチに、キラリと黒く光る物を見つけた。


「や、やはりな……!!」

 貫通した衝撃に耐えながら、ジャックは笑みを浮かべる。


 ダイダラボッチの回復能力は、ジャックにも引けを取らないものだ。なので、出来る限り剣を刺したままにして、傷口が完全に塞がってしまうのを防いだ。


 だが相手もこの程度ではへこたれない。ジャックに向かって、拳での攻撃を連続で仕掛けた。不自然な程、さっきよりスピードが上がっている。


「ぐはっ!!」

 ジャックはパンチを受けてしまった。僅かながらダメージが通る。



「全くな……。」

 賢しい真似をしやがって。ジャックはそう思っていた。

(この試合、俺はこのデカブツに勝つ事は出来ん。コイツの強さは、たかが90歳ぽっちの無力な男ではどうしようもないだろう。だが、自らは手を下さずに己が介入するような細工までし、挙句その為の協力者をむげに扱うとは……。とても感心できたものではないよ。お菓子のキャラクター、言い方は悪いがね──。)


天罰バチ当たってくれ。」




 ジャックは再び構え、攻撃のチャンスをうかがう。あの光ったもの、アレが弱点やもしれん!奴にいい思いをさせてばかりでは、なんとも不愉快だ。いずれ負けるが、ここは最低限のストレスでも与えてやろう。


 ジャックは近づいてくるダイダラボッチをジッと見つめながら、剣を握りしめる。そして来るか!と思ったその時──。


「たああぁぁぁぁいしょおおぉぉぉぉ!!!!!何やってんすかああぁぁぁぁぁぁ!!一気に攻めるっすううぅぅぅぅぅ!!!」


 ……カノヴァの野次が聞こえた。あまりの声の大きさに、ダイダラボッチは──、


「もう!めんどくさいっす!ダーダーで良いっすよ!」


 あ、えっと、ダーダーは驚いてカノヴァを見た。ジャックは恐ろしい顔をしている。


「行けぇぇぇ、たああぁぁぁぁいしょおおぉぉぉぉ!!!」

「うるさああぁぁぁぁぁぁい!!!」

 ジャックが怒鳴り、剣を地面に突き立てる。地面には大きくヒビが入った。


「ウィル!!!」

 ジャックが叫ぶと、どこからか、前にジャックと戦ったウィルが現れ、カノヴァの腕を掴む。

「はい、カノヴァちゃん退場!残念!!」

「え、ちょ、待ってくださいっすよ!自分は大将の応援に──!」

「その大将が噴火モードだから!これ以上試合を冷ましちゃダメだろ。」

 カノヴァはウィルに連行された。


「続けようか。」

 ジャックは剣を構え直し、ダーダーは再度拳を振りかざす。


 ドォォォン!!


 と、ものすごい音を立ててダーダーの拳が地面に叩きつけられる。するとジャックは、その拳を伝ってダーダーの頭の上へと登っていった。そしてあの弱点らしきものを探す。


「どこだ……?あれは──!?」


 ジャックはダーダーの手に捕まってしまった。振りほどこうにも、相手の力が強すぎる。


 その瞬間とき!再び光るものが視界に入った。──今しかない!


 ジャックはミスティ・カジェルディで剣を操り、光に向かって斬撃を繰り出す。小さくガンッ!という音がした。


 爆音とも言える咆哮と共に、ジャックは地面に叩きつけられた。僅かだが、上手くいったようだ。


 だが、その時!


 ジャックは驚愕した。ダーダーの──もうやめよう。ダイダラボッチの影が、どんどんと伸びていくではないか!それは天高く伸び、最初は16フィート数メートル程であったダイダラボッチの身体は、30メートル程にまで肥大化したのである。


「冗談だろ……。」

 ジャックは戸惑うも、剣を持ち直す。ダイダラボッチは咆哮を上げると、またもジャックに向かって拳を振り下ろした。



 そして──。




*** *** ***




ドォォォォォ────ンッ!!!


「くっ!!」


 巨大化されたダイタラボッチは、隕石の様な鉄槌を振り下ろした!

 凄まじい音と四散する土砂。強い振動のために避けるのが手一杯だ。


「ハーッハッハッハーッ! 見たかね!? さあ、楽しい宴ハロウィン・パーティーといこうじゃないか!」



 一方の巨人は避けたジャックの方を向き、大地に埋まった腕を引き抜く。


──次は外さない。


「そんなににらんでも当たってはやれんぞ」


 一歩踏み出すごとに響くその振動に戦慄せんりつを覚えながらも、ジャックはロングソード一本を構え、来るべき相手の行動に備えた。


(こんなもので防げるとは思っていない。だがこちらにも意地がある!)


 弱点は把握した、待ち続ければ機会は必ず訪れる。

 とにかく今は機会を待つのだ!


 下ろされる大振りの鉄槌、単純な軌道。確実にかわせる自信のあった巨人の拳は、ジャックの動きに合わせて瞬時にその軌道を変えた!


「──っ!!!」


 まともに食らい、闘技場の壁まで吹っ飛ばされ叩き付けられる。全身に強い衝撃を覚え、思わず胸の古傷を抑えた。


(くっ老体はもっといたわるものだぞ! ……はっ!?)


 目前には既に攻撃態勢のダイタラボッチが!

 このままでは後ろの観客席まで巻き込んでしまうではないか!


莫迦ばかな!? 止せっ!!」


 だが非情にも鉄拳は、ジャックのいる壁際へと振り下ろされた!


 地鳴りと土煙、観客らの阿鼻叫喚あびきょうかんの中、目を開ける。

 巨人の拳はすぐ横にあり、壁も破壊されてはいなかった……。


──今のは冗談だよ。


 指を立てて左右に振る仕草、流石のジャックも何かが切れた。

 なにくそとロングソードを突き立て、立ち上がり睨む。


「……お前の主人の性悪さはよくわかったよ、化け物っ!」


 ミスティ・カジェルディを用い、巨人の顔に纏っていた布を被せる。

 巨人が振り払った時には既に、居たはずのジャックの姿は無くなっていた。


「ついて来い化け物!しつけを教えてやる!」


 巨体をくぐり、闘技場の中央へと全力で走る。

 そうだ、こっちを向いてついてこい。

 走って来る巨人をちらりと確認しつつ、その両足へ二本の剣を出現させた!


『グオォォォォォォォ──ッ!!!』


 足元に鋭い痛みを覚え、両手両ひざをつくダイタラボッチ。傍から見れば、巨大な罪人が詫びているような格好となっていた。巻き上がる砂埃すなぼこりの中、ダイタラボッチのその先に一筋の光明。


 闘技場が晴れ、巨人の先に高々とランタンをかざすジャックの姿!


「正直使いたくはなかったがな……あの主人の元にいるよりはいくばかマシだろう。さあ、懺悔ざんげの時間だ!! 忌まわしき囚われの魂を解放しろ!」

 

 不死者とて魂は存在する、奪えばただ消滅するのみ。巨人の頭部から黒い光の線が発せられ、ランタンの中へと吸い込まれていく。

 ここで予想外な事態となった。一本だけと思われた光の線は、その後も無数に頭部から発せられ続け、止まることを知らない。ダイタラボッチの巨体も消滅せずに、じっと硬直している。


(……地獄そのものから魂を引き出しているようだ!)


 ランタンに吸い込まれては消えていく、憎悪、嫉妬、恐怖、怒りの思念体。

 だが今が絶好の機会であることには違いない。動かなくなった巨人の頭上へと二本の剣を発生させ、光の線を発している場所へと正確に狙いを定める。


終いだ、悔い改めろジャッジメント!」


ガチンッ!!


 金属の音色と共に、巨人の頭部へ裁きの双剣が突き刺さる──筈だった。


 無情にも二本の剣は弾かれ、目前には動き出した巨大な手が迫る! 失敗か!?


キンッ!


 斬り払おうと試みるも、呼び戻したロングソードまでが弾かれ、ジャックの身体はダイタラボッチの手中へと収まってしまった。気付かなかったことだが、前のめりに倒れた瞬間、その巨体はダイヤモンドの数千倍にまで硬化されていたのだ!

 逃れられぬかせをされた男を高々と揚げ、美女を捕まえたキング・コングの様に咆哮ほうこうを上げるダイタラボッチ。そして、その口から信じられない言葉が発せられた!


『イ゛ダ ダ ギ マ゛ー ズ !』


「たぁぁぁぁぁいしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ────っつ!!!!!!!!」


「こぉら退場カード二枚目だぞー?」

「もうこれ試合じゃないっすよっ!! 大将がダーダーに食われちまうっす!!」

「だーかーらー、これはそういう勝負なのっ」


 再び現れるも、再度ウィルに羽交い絞めにされるカノヴァ。ジャックの言いつけもあるのか、メグとダリオは闘技場を静観している。


「うわぁ……。でもこの試合ってまた生き返れるんでしょ?」

「後で化け物に食われた感想が聞けるかもな」

「冷静に言わないで下さいっす!!」


 カノヴァは騒ぎながらウィルに引きずられていくのだった。

  

 

 一方ジャックは掴まれた手の中にいた。ミスティ・カジェルディで逃れようと試みるも、硬化された体には剣が突き刺さらない。


「やめろ化け物! 俺など食っても美味くはないぞっ!!」


 高い位置から見える観客席、あのお菓子のキャラクターの姿も見えた。一体どんな顔でこちらの様子を伺っているのか(着ぐるみだが)と視線を向ける。


「──!?」


 だが木林は足を組んでヘッドフォンを掛け、そっちの事情など知ったこっちゃないとばかりにニュース・ペーパーを広げているではないか! なんて奴だっ!!


 そして今、正にジャックを飲み込まんと大口が開かれた!


キン! ガキーンッ!


「……駄目かっ!!」


 体表面ならまだしも、口の中はどうだ? ギリギリまで隙を伺っていたが、最後の望みは勢いよく閉じられた牙によって阻まれる。歯の間に挟まった爪楊枝を抜くかのように、剣を一本一本引き抜くと、おぞましき巨大な顔は笑みを浮かべた。


『ヤ゛ー メ゛ダ ッ!』

「うっ!? うおおおおぉぉぉぉー!?」


 ジャックを握ったまま巨大な腕を振り回す。

 そして闘技場の端まで走ると、そのゲートに向けてシュートッ!!

 自らもゲートを背に腰を下ろし、天戸岩の様に動かなくなってしまったのだ。


──そこまで! ジャック選手を退場とみなし、勝者ダイタラボッチ!


…………


 興奮とも恐れともつかぬ客声の中、木林はヘッドフォンからラジオを聞いていた。


『先程の試合、まさかあのような結果になるとは。しかしなぜ、ダーダー……失礼、ダイタラボッチはジャック選手を食べなかったのでしょうか?』

不死者アンデッド同士、共食いになるとでも思ったのでしょう』

『ははは、成程。しかしゾンビも不死者ですが、共食いはしますよ?』

『そうなんですか? ですが先程の彼らは、ゾンビとは決定的に違っていましたね』


『ゾンビと不死者アンデッドの決定的な違いですか……興味深い、それは何でしょう?』

『闘技場に立つ戦士の誇り、ですよ』


…………


 ニュース・ペーパーを折りたたみ、木林は立ちあがる。


(クックック……もう少しでこちらの仕掛けトリックが駄目にされてしまう所だったよ……。けれど勝利のお菓子トリートは私のものだ。楽しかったぞハッピー・ハロウィン、ジャック……!)



2日目 第4試合 後編 完  → 続話を待て!?




*** *** ***




ジャックの後日譚はこちらから!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883919143

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