桜 愛梨菜 VS ただのねこ

「止め!!第4試合、白い鳩の勝利!」

「ヤバい、鳩が人間に勝ったぞ!」

「凄くね?」

「あの鳩、格好いいわ!人に勝っちゃったんだもの!」

「流石は鳩だ。でもまあ、青年なよだんもそこそこ善戦したんじゃないか?」

「だよなあ。良い試合だったと思うぜ。チートVS不死よりは全然おもしれぇな。」

「そうか?俺はチート争いの方が好きだが。」


観客席からちらほらと感想が聞こえてくる。


(第4試合は鳩の勝ちかー。そりゃ観客もびっくりするよ。まっ、第5試合も驚くことになるだろうけど。だって、相手が誰であろうと5歳児愛梨菜が勝っちゃうもん。)



フィールドに繋がっている通路で愛梨菜は自分が呼ばれるのを待っていた。

アナウンスを聞くに、どうやら第4試合が終わったようだ。

なら、愛梨菜はもうすぐ呼ばれることだろう。

そう思い、待つこと5分。


「桜 愛梨菜さんね?もうすぐ呼ばれるから、フィールドにすぐ出られる所まで来てくれるかな?」


「うん。わかった!」


ここに来て初めて話したお姉さんとはまた別のお姉さんが声をかけてきた。

愛梨菜はその指示に従い、フィールドにすぐ出られる所まで来た。


「あのね、おねーさん。たいせんしゃのひとって、どこにいるの?ここにはまりなしかいないけど。」


「あっ、それはね。反対側にもう一つ、フィールドへの入り口があるの。ここからだと、ちょっと見づらいかもしれないけど、そこにちゃんと対戦相手がいるから大丈夫よ。」


「そーなんだ。ありがと。」




*****


「それでは、予選1日目、第5試合を始めます!」


そうアナウンスがあった途端、会場が沸き上がった。


フィールドに立ち、試合開始の合図を待っているのは幼女とねこだった。


これまでも変態VS少女や黒VS白、チートVS不死、文化系男子VS鳩といった、珍妙なメンツによる試合であったが、この第5試合もそれらに負けないどころかそれ以上に不思議なメンツなのであった。




「では、両者位置について。―――――始め!」


審判が始まりの合図を出した。


(どうしようかなー?まさか、ねこが相手だとは思ってなかった。ねこをやっつけちゃったら、可哀想だしなー。んー。場外に出すしか方法はないか。)


愛梨菜は何でもポケットに手を入れた。


「おぉっと!愛梨菜ちゃんはもう仕掛ける気です!袋に手を突っ込んでいます!一体何をする気なのか!そして、ただのねこはどうやって対処するのでしょうか!?」


アナウンスを聞きながら愛梨菜が袋から手を出そうとした瞬間、愛梨菜の視界が傾いた。


一瞬の後に襲われる浮遊感。


そして愛梨菜は穴の中へ吸い込まれていった。




*** *** ***




 愛梨菜は宇宙にいた。

 今までギャラクシーホールに吸い込まれてきた数々の銀河がそこには存在するのだろう。星々の煌めくその場所はとても綺麗で素敵な場所だったけど、いつまでもここにいたら失格してしまう。


「はやくここからぬけださないと。なにかやくにたつものはないかな~。なんでもいいからでて!」


 袋からそれを取り出す。何かSF的な大きな装置が出てきた。


「ワープそうち!?」


 丁寧に名前が書いてあったので分かった。レバーを倒しただけでそれは起動して、座標が試合会場にセットされた。

 この星々の銀河のどこかにこのマシンはあったのだろう。宇宙も自分に味方している。愛梨菜はそう確信して試合会場へとワープした。



 

 猫はまさか愛梨菜が戻ってくるとは思わなかった。だから少女が戻ってきた時、さすがのただの猫も驚いた。

 盛り上がる会場で少女と猫は対峙する。

 愛梨菜は袋から何かを取り出した。猫じゃらしだ。


「ねこちゃんにはこれよね。ほーら、こっちおいでー」

「にゃあ」


 ねこまっしぐら。向かっていく。

 飛びつくのをかわしていきながら、愛梨菜は猫を場外まで誘うつもりだった。だが、


「にゃあ」


 何度目かの飛びつき。猫の姿が掻き消えた。


「ざんぞう!?」


 その概念はテレビで見たことがあった。少女達の戦う子供向け番組のいけすかない敵が使ってくる嫌らしい技だ。

 そうと気づいた時、猫はすぐ背後にいて、


「にゃあ」

「させるか! これもざんぞう!?」


 その姿もすぐに掻き消える。気づけば周囲には多数の猫の残像が出来ていた。


「この、ただのねこなのに!」


 少女の油断を責めることは出来ないだろう。煌めく一迅の爪。愛梨菜の持つ猫じゃらしが綺麗に切断された。

 

「いけない、れいせいにならなきゃ」

 

 猫は手を舐めながら次の遊びを待っている。


「なにかねこをだまらせるアイテムは。どらやき!? これでなんとか、キャア!」


 猫が飛びついてきて、どら焼きはいきなり取られてしまった。


「かえしなさいよ!」


 愛梨菜は追いかける。猫は巧みに逃げていく。少女と猫ののどかな追いかけっこに、会場は暖かな笑いの渦に包まれた。


「いつまでもにげられるとおもったら、おおまちがいなんだからね!」


 何か捕まえるための道具を出したいところだったが、回数制限を気にしてはこれ以上の消費は避けたい。

 追いかけっこは苦手ではない。愛梨菜は猫を巧みに追い詰めて飛びついた。

 だが、その猫の姿は残像だった。


「どこ!? どこにいったの!? ねこ! ただのねこ!!」


 愛梨菜は周囲を見回して探すその姿を見つけた。観客席の上の方にいた。


「そんなところに! まちなさいよ!」

「そこまで!」


 愛梨菜は追いかけようとするのだが、審判に止められてしまった。


「どうしてじゃまするのよ! ねこあそこにいるのに!」

「猫場外! 愛梨菜選手の勝利です!」

「え? あ……ああ」


 右手を掲げ上げられながら、愛梨菜は腑に落ちない気分だった。

 おいしいどら焼きを食べ終わって、猫は満足してその場を立ち去った。




*** *** ***




ただのねこの後日譚はこちらから!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883896218

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