虚 VS 人間の触覚

遂に俺の出番が来たか、、、虚は一回戦をシードで勝ち上がり試合会場に足を踏み入れる。そして相手が登場する。虚の相手は中肉中背の男で疲れ切った顔をしておりどこか震えている。そして直ぐに受付嬢がその男に近づき何かを話し、胸元のバッチを取る。成る程な、、、あの男は一回戦で何か心に深い傷を負っている様だ。今は何も考える事も出来ないか、、、受付嬢がその男のバッチを外した瞬間その男の目から光が消え、不安そうな表情は一切消え虚と全く同じ表情をし始めた。だが安心しろ、、、俺の能力故にお前は最高のポテンシャルを発揮できる筈だ。不安などの感情は無いだろう?そして、虚はエントリー表を思い出し目の前の男と比べる。確かに紛れも無い人間で一切の強者の気配も感じさせない。そして、持ち物はポケットティッシュか、、、だがこいつは一回戦を勝ち抜いている。あの戦いを見たが原因はよく分からないままだ。だが、他の試合を見る限りこの大会は化け物揃いだ。こいつがただの人間である筈が無い、、、司会者がお互いの解説をしている間に虚はこんな事を考えていた。そして、試合開始のゴングが鳴る。

「さて、小手調べだ」

まずはあの男の能力を見ない限りはなんとも言えない、、、虚は虚を全力で殺すイメージを固める。だが、、、

「なっ!?」

その男はかなりゆっくりの速度でのそのそと虚の方へと走ってくる。虚が驚くのにつれて対戦相手の男も動きを止める。ダメだ!俺がしっかりとイメージを固めなければ!虚はそう思い再び虚を殺すイメージを固めるが、結果は同じ。到底早いとは言えず虚にはとっては止まっているような速度で対戦相手の男は腕を振り回す。なんなんだ、あの男は、、、あれが全力だと!?いや、もしかしたら俺の能力が効いていないのか!いや、だが奴は俺と同じ動きを、、、虚はもはやもう自分が何を考えているのか分からなくなっていた。まぁ、良い。多分あいつは肉体攻撃が得意じゃないだけだ、、、それならば!虚は自分にできる最高の事を考える。虚は目にも留まらぬ速さで瞬間移動を繰り返した挙句虚像の実体を試合会場一杯に作り上げ試合会場は虚の姿で埋め尽くされた。そして、対象の男はと言うと、、、

「俺を舐めているのか、、、!」

もじゃもじゃの髪の毛を何本か抜きティッシュに糸を通すように使用し何かを作ろうとしていたのだが、虚が怒りを露わにすると同時に目の前の男はいきなり作りかけの何かであるポケットティッシュを地面に叩きつけ怒りを露わにする。

「おい!ここは演舞の会場じゃないぞ!早く試合しろ!」

観客から野次が飛ぶ。その時虚の中で何かが壊れた。

「ふざけるなよ、、、?」

虚は長年生きていても精神的には殆どの事が思い通りになる人生を送っており、他人が反論する事は無かった。虚は徐々にイラつき始め殺気を周囲に放つ。その瞬間会場は静寂に包まれ観客達は大粒の汗を垂らす。勿論相手の男もイラつき始め地団駄を踏む。だが虚はそれに気づき落ち着こうとする。危なかった、、、このままでは失格だ。この男、、、本当に何も無いただの人間なのか?虚は思った。そして、ただの人間、、、つまらぬ、、、俺に対してこんな相手をぶつけるとは、、、虚に何とも言えない感情が渦巻くがあまり殺気をばら撒くと自滅しかね無いので虚は冷静を保つ。俺をここまで錯乱させた報い、、、しかと受けるが良い!もう虚は疑心暗鬼の考えを捨てていた。つまり、目の前の男をただの人間と見て勝負する事にしたのだ。何を今まで迷っていたんだ?相手はただの人間ではないか?この俺がただの人間如きに負ける訳がない!虚は勝ちを確信し笑みさえも溢れる。そして、人間は淡い、、、少しの衝撃で身体の骨は折れ、、、肉をも断たれてしまうだろう。それは今までの相手で分かっている。だが、今までの相手は悲鳴も上げなかった。何故ならば、、、虚の思考と一致している為だ。自分が自分の力で仲間の力で傷つけられ死んでいく!それにも気がつかない愚かな種族!もしも目の前の男が本当にただの人間であったならば!その男も同じ運命を辿るだろう!虚はそう考えて地面に頭を打ち付けるイメージを固める。

(ガンッ!ガンッ!)

目の前の男が自ら頭を地面に叩きつけ辺り一面に鈍い音が響く。

「おいおい、あの男は何をしているんだ!血迷ったか!?」

観客がざわざわとざわめき始める。まだだ!まだ死んで貰っては困る!こんな人間の死に方は俺は幾らでも見てきたんだ!もっと俺を楽しませろ!そう思った虚は自身の身体を殴るイメージを固める。目の前の男は為す術なく、自分で自分を殴り続ける。あまりの訳が分からなく残酷な試合展開に会場は混乱に包まれ再び野次を飛ばす者もいれば目を覆い、会場を見ないようにする者も現れる。さぁ、外野は盛り上がるが良い!これからが人体ショーの始まりだ!虚が両手を広げて笑みを浮かべると目の前の自身の手によってボロボロになった男も頭から血を流しながらも手を広げて笑みを浮かべる狂気的な絵が写される。そして、虚は観客に聞こえるように念力で宣告する。

「おいおい?まだこの程度で盛り上がってんじゃねえぞ?俺はまだ全然楽しめねえぞ?」

虚の狂気的な声が強制的に聞こえた観客は嫌悪感剥き出しで顔を顰める。さて、次はどうするか、、、?そうだな、そろそろ軽い肉体暴力は飽きた。食事、、、俺はする事が出来ないが少なくとも人間が幸せと思う瞬間だ。それを絶望に変えてやろう!虚は地面を食べ物に例えて齧り付くイメージをする。そして、もっと食いたいと思う。目の前の男は地面に貪り付くようにかぶり付き歯茎から血が出ようとも歯が欠けようともその行為を止める事は無い。胃の中の内容物を吐いては地面に食らいつき吐いては食らいつき。それを繰り返した。もはや、この試合は狂気に満ちた何かを見せつけられている観客の一部では吐き気を催す者もいた。おおっと危ない、危ない、、、これも失格になるのか?だがまだ終わらせんよ?次は何をしようか?俺の拷問ショーはこれからだ!虚はまだまだ余裕のある残り時間を尻目に自分が楽しむ方法を常に模索するのであった。そして勿論対戦相手の男は歯が殆ど欠けて歯茎から血を流しながらも嬉しそうな表情をして笑っていた。そして、会場の真ん中で向かい合っている二人はサイコパスの雰囲気を醸し出しながら笑い声をあげたのであった。

「さぁ!もっと俺を楽しませてくれたまえ!」




*** *** ***




※グロ注意









 楽しい! 最高だ! 恐怖も痛みも苦しみも不安も絶望も、全部がどこか遠くのほうに飛んでった!


 地面に胃の中の物をぶちまける。まるで自分の余分な部分が抜けていくような、自分の汚れが取り除かれていくのような、とにかくスカッとする。

 歯がまた1本抜け落ちた。ぼろっと歯が口から零れ落ちるのを見ると、言葉に表せないような嬉しさがこみあげてくる。


 顔をあげ観客席を見回すと、吐きそうになっている観客を見つけた。

 おっと、よいこはマネしないでね!


 次は何をしよう!?


 そうだな♪ そうだな♪ 取りあえず視覚はいらないかな!


 おもむろに人差し指で右の眼球をなでる。視界が赤く染まった。観客が恐々と見守る中、人差し指を差し込み眼球を抉り出す。

 何かが切れるような感覚とともに、ずるりと眼球を抉り出した。


 まず1つ! どんな味がするんだろう? 土よりはおいしいかな? いただきまーす!


 口の中に放り込み、下で眼球をなめ回す。下の上をころころと転がって、まだ残っていた奥歯のほうに運んでいく。歯と歯の間に到達したら、一気に噛み潰す。ぶにゅりと潰れ、何とも言えない味が口の中に広がった。


 ううん、味はよくわかんないな? 血の味しかしない。まあいいいか! 触感はぬめぬめした焼き鳥の皮みたいで面白いな!


 しばらくその触感を楽しみ、飲み込んだら次は左の眼球を抉り出し、口に含み、咀嚼し飲み込む。


 なんか目の奥がスースーするなあ。よし、ティッシュでも詰めとくか!


 手探りで地面に落ちたポケットティッシュを探して、拾い上げ数枚のティッシュを取り出した。くしゃくしゃに丸めて、ぽっかりと空いた2つの空洞にティッシュを詰め込む。


 おお! ピッタリだ! やったぜナイス俺!


 今度は……鼻だ! 最近鼻づまりが酷くて困ってたんだよ! ちょうどいい、嗅覚もいらないし、鼻を壊そう!


 地べたに土下座し、一心不乱に顔を地面に打ちつける。頭を大きく振るとティッシュが落ちるので、手でない目を抑えながら鼻を地面に打ちつける。鼻血がダラダラと流れ、鼻の骨が折れて形がひしゃげる。


 もっとだ! まだまだ物足りない! もっと楽しく! もっと面白く!


 鼻がおかしくなったから次は耳を地面にぶつける。一思いに、ガツンと。


 なんか土下座してるみたいで面白いな! これ周りから見たらめっちゃ面白いだろうなあ! はははははははははははははははは!


 右の耳と左の耳、それだけでなく顔中をまんべんなく打ち付けて壊していく。亜顔中に傷ができ、黄色の皮膚は赤で染色される。


 ああ! 目が取れちゃった! 楽しいなあ♪


 ぼろぼろになった顔をあげる。歯がまた1つ抜け落ち、膝の上を転がっていく。


 人間って脆いなあ! 人間って非力だなあ! 脆いから簡単に壊せるけど、非力だから壊せないや! 矛盾してるじゃん! ははっ♪


 次はどうしようかなあ♪ どこ壊そうかなあ♪ ああっと、忘れるとことだった! 目、取ってこなくちゃ! やっぱりいいやめんどくさい! また詰めよう! 今度はもっとたくさんだ! 挑戦だ! このポケットティッシュの残りを全部詰めよう!


 早速空洞に指を突っ込んで、中を掻き回――――


「そこまで!」


「観客席に大きな影響を及ぼしたため、虚選手を反則負けとする!」


 え!? おしまい……?


 なんだよ! 俺はまだ途中なんだよ! ふざけんなよ俺の邪魔すんなよ!


 ってあれ? おかしいなぁ。変だなぁ。


 突然目の前が真っ暗になったような、既に視界が真っ暗なのに、そんな感じがした。


 なんか眠い……。これで……おしまいかぁ……。


 最高のショーはこれにて中止となった。




*** *** ***




虚の後日譚はこちらから!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883925466

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