最終話 閉会式
「やあ。待たせてすまなかったね。——まずは、優勝おめでとう」
場内を埋め尽くす超満員の観客。彼らから放たれる、まるで蜃気楼の様に空間を歪ませる熱気。そして熱気の元となった二十二名の出場選手はもういない。会場に残ったのは、優勝者と一人の男のただ二人のみ。最も、優勝者の姉も含むとするならば三名ではあるが。
シンと静まった会場は、二人だけの会場は、やけに大きく、広く見えた。
長かった決勝戦が終わり、同時に短かった大会が終わったのは、今から半日ほど前の出来事である。会場内に窓は無いが、照射するライトが作り出す明瞭な影と、どこからか入り込む肌寒さが、今が月が昇る時分である事を感じさせる。
「一ノ瀬……アザト君、だったよな?」
優勝者はただ一度、静かに頷いた。
「なんだか、意外そうな顔をしているね。閉会式と言ったから、もっと大々的に執り行うと予想していたのかな?」
「 」
「なるほど、確かに。——だが、それでは君が困るだろうと、私なりに勝手に配慮させてもらった。なにせ、願いは人を顕わしてしまう。別世界の人間とは言え、人目を気にされて願ってもない願いで〆られたんじゃあ、こちらも大会運営冥利に尽きないもんでね」
男はポケットから無造作にしわくちゃのメモ用紙を取り出した。
どこにでもある、ただのメモ用紙。
「これがあらゆる願いを叶える願望機。『カクヨム杯』だよ」
「 」
「ハハ。実は観客を去らせたもう一つの理由がこれでね。優勝賞品がこんなモノだと知れたら、皆興ざめしてしまうだろう?」
「 」
「だが……嘘偽りなく、これに私が書き入れた事は全て現実となる。我々にとって、活字は、単語は、文章は、なによりも強い力なんだよ。――さて、本題です。ありとあらゆる願いを叶える願望機。君は何を願う? 確か、元の世界への帰還が願いだとは聞いてはいるが、それは君が拒んでも自然と成り立つ事象だよ。私にとって君の存在は荷が重すぎる。勿論、願望機に『帰りたくない』と願えば話は別ではあるが」
「 」
「 」
「——なるほど。それが君の願いか。それにしても、不思議だねえ。どんな偶然か、もし仮に君が決勝戦で負けていたとしても、あの聖鳥も同じ様な事を願ったんじゃないのかな」
男は再びポケットからペンを取り出す。
どこにでもありそうな、ただのペン。This is a Pen.
「本当に後悔しないね?」
「 」
「 」
「ふむ。承知した」
しわくちゃのメモ用紙。男はそれにすらすらと一文を書き入れる。筆の動きが止まったその時、優勝者の体は光に包まれた。
「楽しかったよ。今までありがとう。それじゃ——またね」
第一回『カクヨム』最強トーナメント 完
*** *** ***
一ノ瀬アザトの後日譚はこちらから!
第一回『カクヨム』最強キャラクター決定トーナメント いずくかける @izukukakeru
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