【エルエール=バルルード】(前花しずく様)

【エル様がトーナメントに参加するようです。】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883903861


 水色とピンクで統一された家具。白く清潔感のある壁。漂う女性用シャンプーの匂い。

 ここは決して一人暮らしの女の子の部屋などではない。アジア及びヨーロッパ連合国軍日本支局日本地区防衛本部、対飛来兵器特別攻撃隊の拠点である。この一室と、奥にあるキッチンや風呂は生活スペースになっているが、壁一枚隔てた向こう側は実験施設になっている。

 チーム内の唯一の男――臼田ハクトは、水色のベッドに座ってテレビを視聴していた。

「ハクト、お前はテレビが本当に好きだな」

 ハクトの分と自分の分の2カップのコーヒーを淹れてキッチンから戻ってきたエルエール=バルルードはやれやれと溜め息をつく。一見、ただの女の子にも見える彼女だが、何を隠そう、このチームのリーダーである。一応、宇宙人でもあるのだが、それはこの際あまり関係はない。

「でも、テレビって何となく見ちゃうよね。コーヒーありがと」

 ハクトはいつも通りはにかんだように笑ってカップを受け取った。

 ――ここまではいつもの、日常の風景だった。

 突然今まで見ていたテレビが砂嵐になったかと思うと、次の瞬間にはどこかのスタジアムのようなものが映し出された。

「……電波がジャックされてるな」

 エル(エルエールの略称)がジト目を光らせて言う。

「誰がそんなことを……」

 ハクトとエルが緊張を覚える中、画面には「最強決定トーナメント」というテロップがでかでかと映し出された。

『腕に自信があるそこのアナタ!自らの腕が確かかどうか確かめてみたくはないかい!?誰でも参加OKだ!人間でも宇宙人でも魔法使いでも人外でも何でもいい!戦いたい奴だけやってこぉぉぉい!!場所は……』

 いかにも胡散臭いナレーションが流れたかと思えば、また画面は砂嵐になって、さっき見ていたバラエティー番組に戻っていた。

「なんだそりゃ……こんなんで人が集まるのかな……」

 ハクトが苦笑しながらエルを見ると、その無表情な顔が微妙にだが笑ってるように見えた。

「……エル?まさかさっきのに参加する――とか言わないよね?」

 ハクトの質問にエルは意味深ににやりと笑う。

「なに、電波をジャックしたんなら立派な犯罪だろう?軍が出動しても問題はない」

「そんなこと許可が出るわけ……」

 出るわけないと言おうとしたが、ところがどっこい、エルは何気に軍の幹部との交流もあるもので、出たいと言えば簡単に認められてしまう可能性は無きにしもあらず……というかほぼ100%認められるだろう。

「で、でも、エル勝てるの?なんか人外とか魔法使いとか言ってたけど……」

 ハクトが心配そうに言うと、エルは不気味な笑みを浮かべる。

「フッ……案ずるなハクト。どんな魔法だろうがなんだろうが、私の科学力の前には歯が立たないということを見せてやろう。肩慣らし程度にはなるように、相手にはせいぜいあがいてほしいな」

 こうして、ノリノリなエルをハクトが止められるはずもなく、エルはこの不可思議なトーナメントに参加することになったのだった……。

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