第20話 家族
その日、僕は彼女を想いオナニーをした。
仕事に出かけている妻も、高校に行っている息子もまだ家には戻っていなかった。店のラストを見る日以外は基本、家族の誰よりも僕が一番早く家に帰っている。
今日が初めてではなく、こんな行為をすることが増えていた。
関さんを想いながらオナニーをする。
何度も何度も関さんを抱く。
でも頭の中で彼女を抱くのは僕ではなく、関さんの旦那だった。
顔は一度だけ関さんの家族写真を見て覚えていた。関さんがこころで働くようになったばかりの頃に一度だけ写真を見せてもらったことがあった。携帯電話で撮られた写真は夏休みに家族で三段峡に行った際に撮られたものだった。関さんとしては家族の姿を見せたかったわけではなかった。三段峡の黒渕を進む渡船から撮影した翠色の清流を挟む絶壁を見せようとして誤って家族で写った写真を見せてしまったのだ。すぐに隠そうとしたけど、僕は見せてくださいとお願いした。恥ずかしそうにしながらも、彼女は家族の写真を見せてくれた。関さんの旦那は僕と同い年だった。趣味で水泳をしていると聞いたことがあった。日焼けした肌の細身で長身の男性だった。
「旦那さん魚好きなんですか?」と僕は尋ねた。娘さんとお父さんが一緒にアマゴの塩焼きにかぶりつくという定番のポーズだ。
「魚、よく食べるんですよ。水泳してるからですね。」
「それは理由にはならんでしょ」真面目な顔で答えた関さんが可笑しかった。
関さんちの、今はカープ女子らしい娘さんはうちの息子と同い年だった。
うちも関さんちもミレニアムベイビーってやつだ。
名前はみずほだったと思う。どちらかと言えば父親似の切れ長の目をしていた。
「大きくなったら結婚させましょう」と僕は関さんに提案した。
「親戚になれますね。」関さんは断らなかった。
関さんはあさひ町に住んでいるから、娘さんは公立のあさひ町小学校からあさひ町中学校へ、そして市立の舟入高校へと進学した。なかなか優秀な娘さんだった。
うちの息子は舟入高校は無理だと中学校で言われ、県立の皆実高校をランクを落して受験したが、失敗し、私立の高校に入った。
「結婚させようと思ってたのに、こりゃあ無理ですね。」僕は関さんに言った。
「そんなの関係ないでしょ。まだまだ大丈夫ですよ。」と関さんは言った。
「いや、息子のことは諦めました」と僕は言った。「なので僕が離婚して関さんと再婚します。」
「こんなおばさんで良ければどうぞどうぞ」と関さんは笑ってくれた。
ミレニアムベイビー達が高校生になったのは今年のことだった。
僕は関さんを想いオナニーをする。
彼女を抱くのは僕ではない。
自分のつもりで試してみたけど、あまりうまくいかなかった。
気持ちが入らなかった。
嫉妬心が気持ちを高ぶらせている。
これって本当に好きだと言えるのか?その度に自問した。
しかし好きだと思うようになれば思うようになるほど嫉妬心は深まり、気持ちが高ぶった。
僕には妻も子供もいる。彼女にも夫も子供もいる。
関さんが僕をどんな風に思ってくれているのか。
僕のことをどんな風に考えながら、旦那に抱かれているのか。
有りもしない事を考え続けて、有りもしない答を探している。
そして今は僕の頭にあるのは旦那ではなかった。
今、彼女を自由にしているのは西尾だった。
西尾は彼女の旦那よりも深く彼女を抱いた。
関さんも西尾のためになることをした。
西尾と重なり、乱れる関さんの姿を想い僕はオナニーをした。
毎日した。
何度もした。
疲れて眠るまで僕は何度もした。
何度も出来た。
関さんは旦那よりも西尾が好きなのだ。
でも西尾よりも僕を認めてくれている。
家族が帰ってくるまでに僕の早朝からの一日は終わる。
関さん想いのオナニーで一日は終わるのだ。
関さんが本当に必要としているのは僕なんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます