第22話 ふたりの関係
西尾君は関さんとの関係を否定していたが、こうなってしまった以上は本社に報告せざるを得なかった。社長の携帯は繋がらなかったので、副社長に連絡をとり、さっきの出来事をありのままに報告した。
「あの二人は何にもないんじゃなかったんか?」と電話口で副社長は僕を怒鳴りつけた。
副社長も先日僕が社長に報告した内容を知っているみたいだった。
この人たちはどんな顔してそんな話題を共有し合っているのだろうか。
西尾君と関さんの関係の有無が会議の議題になったのかと思うと少し情けなく思えた。
そして、その情けない会社に雇ってもらわざるを得ない自分自身も、より小さな存在に思えた。
「西尾は何もないと言ってましたが」と僕は答えた。
それが西尾君から聞いた答えだった。
関さんとは男女の関係ではない。
ただ、「関さんの旦那さんはそうは思ってないみたいです」と僕は付け加えた。
「結局どうなんや?」と副社長はイライラしていた。
関さんの旦那さんからはまだ本社には連絡は入ってなかった。
本社に連絡をするとは言っていたが、やはり思い留まってくれたのかもしれない。
「僕にはわからないですよ」としか答えられない。
「わからんって・・・」
「わかるわけないですよね。」僕はそう言って一方的に電話を切った。
わかるわけないじゃないか。
そんなに二人の仲が知りたいなら本人に聞けばいい。
僕は西尾に聞いた。
そして彼は違うと答えたのだ。
違うと答えてくれたのだ。
もうそれでいいじゃないか。
僕の役目はクレーム処理だ。
僕の役目は関さんの旦那が返ってくれたと同時に終わったのだ。
これ以上、僕に出来ることはなにもない。
学生アルバイトの畠山さんは「帰りたい」と僕に訴えた。「なんか気分が悪いんです」と彼女は言った。
彼女の予定の拘束時間まではまだ3時間以上もあった。
西尾君を一旦店から下げるべきなのかとも考えたが、畠山さんの体調を優先した。
「ごめんね」と僕は畠山さんに謝った。
畠山さんは会釈をしただけで、無言で帰っていった。
無表情な山口さんでさえも心配そうな顔をして、作業が進んでいないようだった。
「大丈夫ですよ」と山口さんに言ってすぐに、何が大丈夫なものかと僕は笑ってしまった。
例え西尾君の言うことが本当だったとしても、この職場にとって大きな問題は関さんがここを辞めさせられるかもしれないと言うことだ。
その問題にをどう対処すればいいのか。
僕にはまだ見当もつかなかった。
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