水族館にて

 短期のアルバイトで水族館の警備員をする事になった。観光バスの誘導や、施設内の入場整理なども仕事に含まれる。

 イルカショーを行う会場で、ショーの合間にある空白時間を過ごす事があった。そこではイルカだけではなく、アシカショーやペンギンショーなんかも開催される。

 人の波が掃けて静かになった会場で一人ブラブラと巡回していると、控えの扉から一羽のペンギンが飛び出してきた。慌てた様子で飼育員が追いかけてきて、十メートルも進まない内にそのペンギンはおとなしく捕まってしまった。

 あのペンギンはどこに行きたかったのだろう。そんな疑問がふと頭をよぎった。この会場を抜け出した所で、彼(彼女)が自由を得る場所なんてどこにもないのに。

 遊泳していたイルカがザバンと跳ねた。

 ピシャピシャと水しぶきが辺りに散った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る